日本にAAASのような組織を作るには

AAAS 国際部長 トレキアン氏特別インタビュー!

日本にAAASのような組織を作るには

AAAS(アメリカ科学振興協会/通称トリプルエーエス)の国際部長トレキアン氏へのインタビューシリーズ。第3回は日本においてAAASのような組織が必要かどうか、そしてそれを実現するにあたっての条件について。

第2回目に科学と行政をリンクさせる役目を果たすAAASの活動を伺いましたが、はたして日本の社会でそれは可能なのか、そもそも必要なのか。こうした疑問に対するトレキアン氏の見解に迫ります。

第3回 日本にAAASのような組織を作るには

湯浅 次の質問に進みますが、何故アメリカは各分野の関係者間の対話を実現化するAAASのようなNPOが必要なのでしょうか?そして日本にも同様の組織が求められると思いますか?

トレキアン氏 AAASにとって大切なのはNPO(非収益組織)であることよりもNGO(非政府組織)であることです。政府機関に所属する人も入れますが、産業界や教育界からの人でも入れます。

つまり組織は誰もが行き来できる大きなテントのようなもので、それぞれのコミュニティや業界の関係者がボトムアップで意見を発信する場所なのです。関係者は何も自分が所属するコミュニティの代表として参加する必要はありません。誰もが科学の純粋な必要性や利便性を検討するために声を発信して貰いたいのです。

湯浅 AAASは政府やその他の学問機関の影響を受けない、ニュートラルな立場にあるということですね。

トレキアン氏 その通りです。学問領域や産業、職業の異なる人々と、幅広い問題の解決を話し合う環境を用意しています。これは科学コミュニティにとって大きなプラスになり、科学的インプットを広く習得できるという意味では政府にとっての利益にもなります。

先ほども申し上げたように、科学コミュニティが政策関係者に対し意見を発信する場になり、創設当初からAAASの目標である、“アメリカ合衆国における科学の環境を守り、推進する”機能を広く果たしています。

湯浅 まるで科学の守護神みたいですね。

トレキアン氏 あとは、日本にAAASのような組織が必要かどうか、という質問について。これは本当に日本の科学コミュニティの決断力に拠ると思います。

アメリカでは8,9人の名高い創始者が組織発足の必要性に駆られ、その道を追求することで120,000を抱える大組織にまで発展させることができました。しかし元を辿れば、前提として変革を必要とする社会が存在したからこそ実現できることです。

幅広い分野とコミュニティに渡って機能する組織には、多様であるからこそのメリットが付きまとうものです。別々の考え方を持つグループが出会うとクリエイティビティが生まれます。多様性こそ新しい分野、新しい考えを生む方程式です。

湯浅 そうですね。

トレキアン氏 しかし、これは国の意図や国益によって方法が変わります。幸いAAASには日本にも活動的なメンバーがいますし、彼らは、我々が直面する諸問題は国内の問題ではなく、グローバル科学全体に通用する問題であることを認識しています。

湯浅 小山田さんへの質問です。今回始めてAAASの年次集会に出席されて、AAASの活動内容を日本でも実行するために、取るべき行動、或いは実行へと結びつく決断力を維持するためにはどんな考え方が求められると思いますか?是非ご意見をお聞かせください。

小山田氏 私個人は、過去に2度AAASの年次集会に出席させていただきました。最初のがバンクーバーでの集会。


トレキアン氏 とてもいいミーティングでしたね。

小山田氏 ええ、私がセッションのオーガナイザーを務め、あなたが相談役を務めてくれました。

トレキアン氏 はい。覚えています。

小山田氏 2回目は今回のシカゴのミーティングです。毎回感心させられるのは出席者の人数です。何千人もの専門家が様々な分野、様々な組織から来場しています。

日本でもこのように多くの人が集合して、安定した科学事業を考案したり科学を促進するための話し合いを行うフォーロムを開催する必要があります。それが私がサイエンストークスと協同する理由でもあります。

湯浅 それは私達の狙いでもあります。最近日本の研究グループが発表した論文、ネイチャーに載ったものですが(小保方氏のSTAP細胞の論文)、が偽造の疑いで注目を集めていますね。

これを見ていると、日本の科学を代表しているのは一体誰だろう、と思わずにはいられません。Japan Society of Molecular Scienceは研究者を罰するべきだ、とか言うし、他のところも言いたい放題。AAASの目的の一つに科学研究の健全性を守ることがあると思いますが、出版倫理に関してどのように関われるといいと思いますか。

トレキアン氏 科学倫理の扱い方はいくつかあります。我々はジャーナルの出版者でもあるので、研究の成果を取り扱う経験、即ち科学コミュニティにて定められているノルマ、規制、正しい行動を遵守する経験が豊富です。

これは出版界においては当然重要ですから。また、他にも研究の健全性、誠実さを検討するプログラムもあり、倫理を侵害しないための教育なども行っています。これは如何に形式化するかが難しいです。ただ、研究の健全性を守る方法は一つではありません。

湯浅 はい。

トレキアン氏 AAASのような組織にとって重要なのは色々な関係者を一つの屋根の下に集め、会話をさせることです。そうして気がつくのが、実際に効果的な規制、効果的な実践方法はどんなものであるかで、それらを共有することができます。

国際的な規模で交流が行われるため、他国のメンバーが設ける基準や運営の規定を学ぶことも可能です。科学にとって極めて致命的な問題として、一般社会が科学と科学者を信頼してくれるか、という点があります。

何も科学者が常に論理的に正しい研究を発表しなければいけない、ということではありません。寧ろ革新的な研究は正しくない研究から発生します。研究の正当性は別として、科学者としての倫理観を軽んじないこと、その対話を欠かさないことは絶対的な条件としてありますね。

――いかがでしたか?話はSTAP細胞問題で注目を集める研究倫理問題へと飛び移りましたが、結局のところ、科学の継続的な発展のために必要なのはトレキアン氏のいう“多様性”なのではないでしょうか。

変革をもたらす多様性の土台となるのはAAASのような多方面、他分野にまたがる第三者的な組織だとすると、現在の日本では難しそうだ、とついつい考えてしまいます。あなたのご意見お待ちしています!
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