「大学病院の研究力と財務データの相関性」

鈴鹿医療科学大学学長・豊田長康氏インタビュー(5)

「大学病院の研究力と財務データの相関性」
豊田長康氏インタビューシリーズ5回目!
研究費と研究者人数、論文執筆数にはそんな関係が?
豊田先生に“大学の研究力=研究者の数×研究時間×狭義の研究費×研究者の能力”の公式について詳しく説明していただきました。(※以下、敬称略)


【湯浅】
先生が最初におっしゃった、研究力は研究者の数×研究時間×狭義の研究費×研究者の能力の公式で決まる 、というお話ですが、研究者の数と研究時間についてもう少し詳しくお話いただけますか?

【豊田】 例えば、僕が持っているデータとしては、国立大学病院の財務データと臨床医学論文数を比較したデータがあります。大学病院の経営と論文数が関係性があるのかどうか。こんなことを今まで調べた人は1人もいないと思うのだけれど。それで、臨床医学論文数がどういう経営指標と相関したかというと、1つは研究人材の数。

臨床医学の研究人材の数というのは大学病院だと臨床医学教員+非常勤医師+大学院生。つまり、臨床医学の講座での医局員と呼ばれていた人たちの数です。その研究人材数と臨床医学論文数の相関を取ったら、きれいに正の相関をするわけです。当然と言えば当然ですよね。

【湯浅】 はい。研究する人数が増えれば論文数が増えるのは当然ですよね。

【豊田】 ところが、論文を書く人1人当たりの病院の収益や手術の件数、借金の金額とかと、研究人材1人当たりの論文数の相関を取ると逆相関するんですよ。つまり、1人当たりの診療の負荷が大きい大学病院ほど、1人当たりの論文数が少ない。それから研究時間を反映する指標ですが、今、タイムスタディというのが国立大学病院ではやっていて、先生方がおよそどのぐらいの時間診療しているかを調べているのです。それにもとづいて、大学病院の教員人件費が計上されています。

【湯浅】 タイムスタディ。

【豊田】 その人件費を反映する財務指標に基づいて僕が計算をすると、診療時間の比率が増えた、つまり研究時間の比率が減ったと想定される大学病院ほど論文数が減りました。それから研究費。これは受託研究費とか共同研究費とかをたくさん取っている大学病院、それから運営費交付金をたくさん取っている大学病院ほど論文数が多い。研究している人の数、研究時間、それから狭義の研究費と論文数が、有意の正相関をするわけです。

【湯浅】 つまり、研究費を多く取っている大学病院ほど、研究人材と研究時間が増え、結果として排出する論文数も上がるというわけですね。

【豊田】 それらのファクターを反映するような財務指標はすべて論文数と相関します。例えば、規模を反映する指標として病床数を取りますと、病床数が多い大学ほど、実は論文数も多いのですよ。でも病床数を増やしたら論文数も増えるかというとそうではなくて、それは病床数が多い大学ほど、それだけ人の数が多いということだと判断します。

病床数を規模を表す指標として多変量解析をすると、例えば、運営費交付金や受託研究費の額とは正相関するのですが、減価償却費とは逆相関します。減価償却費というのは要するに大学病院の再開発とか医療器具にかかるお金を反映し、ほぼ借金の金額を反映しています。

【湯浅】 では、借金が多い病院ほど…。

【豊田】 そう、借金が多い大学病院ほど論文数が少ない。

【湯浅】 そういう病院は借金を返さなきゃいけないから、もっと患者を診て稼いでくれ! という状況ということでしょうか。

【豊田】 そうそう、借金が多い大学病院ほどたくさん稼がないといけないから、研究時間が少なくなってしまうわけですよね。病院以外でも、科学技術政策研究所のデータで、国立大学法人化前後で研究者数×研究時間(FTE教員数と言います)が減少した大学ほど論文数が少ないというデータが出ています。

【湯浅】 なるほど。

【豊田】 そして、研究人材の数×研究時間×研究費を反映する大学病院の財務指標というのは、非常に高い相関係数で臨床医学論文数と相関します。寄与率としては90%以上です。つまり、大学病院における臨床医学論文数を決める要因としては、研究人材の数×研究時間×研究費でその9割以上を説明でき、研究者の能力などのその他の要因によっては、高々1割以下しか説明できないことになります。

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