ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(7)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。

フロアディスカッション その3:AAASポリシーフォーラム参加報告

質問者E AAASの開場に社会学・社会人文学の研究者はどれくらいいましたか? そこの人達が入ってくればもう少し議論が、いわゆる科学絶対主義とは違うようなところに収れんするはずなんですが。

春日 今回参加してきた分科会は政策や倫理に関するものが多かったんですが、割と学部長レベルとかそれ以上の人が多くて、大会全体の人口比を代表はしていないだろうという気がします。ただそれを除いても、とにかくバイオ系の研究者が圧倒的に多かったです。

小山田 AAASの年次大会のセッションテーマは、政策系のところが幾つかの枠を固定で持っているほかは、後はテーマを事前に募って、その中から審査・選考しています。内容はかなり多様で、インフラの話があったり、格差の話があったり、そういうところには社会科学者も入っていたと思いますが今はあまり確定的なことは言えません。詳細はネットに公開されているので、そちらを見ていただければ。

春日 遺伝子組み換え作物に関する社会とのコミュニケーションというセッションに1つだけ参加しましたが、そこはバイオの研究者3人くらいに、社会学者が1人という感じでやっていました。シニアの研究者、ディレクターみたいな人だと政策研究をしている人は多いので会場にもいたにはいたんですが、どちらかと言うと批判的な方ではなくて、政府に比較的近いタイプの社会学者、政治学者が多いところのようでした。他のところに行けばまたちょっと様子が変わるかもしれないですが、今回は科学批判はそんなに聞かなかったですね。

小山田 科学批判が起きやすい場所ではないことは間違いないですね。それではここで、ポリシーフォーラムに出席された白川さん、最新の情報があれば。

白川 皆さんの質問の中身を踏まえてお話しすると、まず予算ですが、NIHの予算が何に基づいて決まっているかというと、歳出上限法という法律が2011年にできました。さっき小山田さんが示されていた研究開発予算の推移も2011年にがくんと下がっていたと思うんですが、法律で上限が決まっているのでどうしても下げざるを得ないという技術的な面がございます。NIHの国際(ファガティ)センターの廃止は小山田さんも言われたように公約を確実に推進しているように見せる査定案が必要なので、そういう案を書いたのだろうという解釈です。ポリシーフォーラムにNIHのディレクターが来ていて、『私、辞表を出したんですけど、受理されなくてまだ首繋がってますよ、ははは』とか言いながら事業紹介をしていました。ライフサイエンスの削減はどうなっているのか、脳研究はどうなのかという話については、『Brain Initiative(2013年にオバマ政権が発表した、国家を上げて脳神経科学に取り組むプロジェクト)は超党派の議員の皆さんに賛成いただいたものですので、当然次の政権でも強く支持されるものだと考えております』という風に仰っていました。モデレーターの説明によればアメリカの予算は、大統領の予算案がそのまま追認されるということではなくて、あくまで議会が作るんです、と。トランプはビジネスマンなので高めのところに球を投げてきて、落としどころは別なんだろうなと皆結構思っているようです。

ただ、着目しておかなければならないところもありました。エネルギー省あたりの査定の仕方を見ると、ARPA-Eのように商業化を目指しますというような格好良いことを言っているところは軒並み削られたんですが、基礎物理や原子力のような基礎研究はそこまで削られていないんです。エネルギー省で物理をやっているような人は意外と冷静です。

これは私の感想ですが、日本で民主党政権ができた時と同じような騒ぎが起きているような気がします。ただ、それに対する科学者・技術者の反応はアメリカの方がずっと実際的・実践的に思えます。私自身はAAASの大会とこのフォーラムの両方参加させていただいたんですが、その中にEngaging Scientists and Engineers in Policy(ESEP)という、科学者と技術者の社会参画に関するかなり大きい分科会がありました。今回のポリシーフォーラムはAsk for Evidenceと言って、エビデンスとは何なのかを問い直そうという趣旨だったんですが、ESEPの分科会は何をしていたかというと、3つのレベルで活動しましょうと皆さんおっしゃっていたんですね。1つめは個人のレベル。ソーシャルメディアやTwitterでもいいし、地域の方々とでもいいので、サイエンスカフェのような形で周りの人を巻き込んでください。2つめはポリシーレベル、これは政府や政治、党派への働きかけという意味なんですが、ここでは科学の重要性をきちんとアピールしてください。もう1つが自分自身の在り方のレベルで、科学者として最も重要なことなんですが、自分の専門分野で得られた知識を行政に対してちゃんとエビデンスとして持ち込んでください。Post-Truthの時代になってきて、科学技術コミュニケーションのモデルも変わってきている中で彼らとしても動き出そうとしているように見えました。

科学技術の話をする時、よく出て来る例としてiPhoneのSiriとかiPhoneとかは全部科学技術なんですよね、と言うんですが一般の人はそんな話には興味がないんです。だから何が必要になるのかというと、夕食の時に良いことを言っていた人がいまして、エビデンスというものの意味自体が変わったんだと。これまでのエビデンスというのは統計的な仮説検定をして、有意かどうか、妥当性があるかどうかをチェックされたものだったわけですが今はそうではなくて、相手に受け止められて、自分のものだと思って貰えて初めてエビデンスになるんだと。それに対して関わって行くという意味で、さっきの3つのレベルの活動が必要だと言っているんですね。多分年次大会の時には全然そんな話はなかったと思うんですが、それから1ヶ月の間に『Post-Truthの時代にあっても、科学技術コミュニケーションを追求して、自己の権利の主張もして、研究成果を社会に実装する、これが科学者・技術者の政治ポリシーへの参画だ』という構造ができあがっていて非常に面白かったです。

少し補足する必要があるのは、連邦政府だけを見ていてはいけないという議論も結構多く聞かれました。環境規制などは実質的には州政府が権限を握っているので、カリフォルニア州あたりは連邦政府を無視して勝手にやるはずです。そうなると、各州ばらばらの規制になるので、石油企業などは逆にビジネスがやりにくくなる。トランプ政権は基本的にderegulation、規制緩和という事ではあるんですが、例えばそれで石炭が復活するかと言えば復活はしないわけです。何故かと言うとシェールガスのような新エネルギーで、技術革新が進んでコストが下がっているからです。いくら石炭が雇用に重要だからと言っても、コストを考えれば単純に工場を戻せという話にはならない。そこは市場競争として受け止められています。1か月前、大会の時にはまだ何もまとまった話がなくて、参加していてもこれはどうなんだろうという感じだったんですが、1ヶ月の間にこういう風に、何とか対応していこうみたいな形になっていました。以上です。

小山田 非常に意義あるご報告をいただきまして、ありがとうございます。アメリカはやはりそういうしたたかさというか、多層性がありますね。自動車はカリフォルニアを無視しては成り立たない産業ですし、個別分野になればなるほどもっと丁寧に見ていく必要もある。今後も色々な対応が行われていくのかなという気がしますね。予算に上限を設けるsequestrationは、議会で合意してこれくらいまでは減らしましょうという歳出のラインがあって、そこに向けて削減していく、そういう基準もあるということですね。

白川 もう1点忘れていました。防衛関連の研究開発、もしくは防衛費の支出に関することですが、これは財政法規上で非防衛・防衛それぞれの支出に制限がかかっているので、法律を改正しないと動かせません。予算案は出たものの、本当に実現可能なのかどうかについては皆さんかなり懐疑的です。それでも少なくともトランプは、公約の時に言ったことを目に見える形で1つずつ、医療保険制度の法案はうまく行かなかったですがそれでも、言ったことを淡々と進めているんです。日本の民主党政権と同じようになるかもしれませんが、取り敢えず俎上に載せている。トランプ氏自体は凄く人たらしらしくて、決まるところに決まるのかどうなるのかはまだ予断を許さないと、少なくとも在ワシントンの日本人の科学技術関係者や関係独法の皆さんはおっしゃっていました。

もう1点、アメリカでは私設財団の役割がとても大きくて、今回のポリシーフォーラムでもザッカーバーグ・イニシアチブのディレクターが来てお話をされていました。環境とかそういう分野の研究はそちらに頼ろうという話も出たりして、日本のように事業仕分けがあったから終わってしまったということにはならないようでした。

小山田 AAASでデータも出ているんですが、オバマの時代、オバマの場合は議会に対して予算の上乗せ要求をしていたんですが、議会としては一部しか認めなかったり、逆に予算を削った年もありました。今後トランプが減額要求を出したとしても、議会がひっくり返す可能性はあります。そういう大統領と議会のパワーバランスで決まって行くということなんですね。

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  1. トランプ・ショック――アメリカの研究開発関連予算の大幅カット
  2. トランプ政権を生んだもの:アメリカの政治・宗教事情
  3. 2017年2月、AAAS年次大会出席報告
  4. アンチ・トランプで科学者結束。細かな論議には温度差も
  5. フロアディスカッション その1
  6. フロアディスカッション その2
  7. フロアディスカッション その3:AAASポリシーフォーラム参加報告
  8. フロアディスカッション その4(終)