ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの政治と科学(5)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。

フロアディスカッション その1

小山田 時間も押してきましたので、フロアを交えたディスカッションに移らせていただきたいと思います。AAASの年次大会自体は政策だけ議論しているわけではなくて、例えばゲノム編集技術やAIのような新しい技術も色々議論しようみたいなセッションもあったりする幅広いものなのですが、それとは別に、こういう予算案が出された後を受けて、アメリカの科学技術政策の議論をする『ポリシーフォーラム』という会合が毎年春に持たれています。そちらに参加された方もいらっしゃるので、後で少し話題提起を頂きたいと思いますが、まずは春日さんへのご質問を伺います。

質問者A 2つあるのですが、1つは聞き逃したことで、サンダースと話したら論点がシフトしたっていうお話のところがよく分かりませんでした。経済的自由とか効率重視と、財政支出ですか、要するに格差の問題はサンダースとトランプで貧困層へのアピールは共通していると理解しているんですが。シフトしたというのはどういうことなんでしょうか。

春日 トランプとサンダースの言っていることは基本的には、格差を解消しようということで一致はしていました。ただ、サンダースは元々環境問題の運動家と近い人なので、再生エネルギーにもっと投資をしようとか、分散型でやりましょうという側面が強いです。それに対してトランプは石油パイプラインを造るとか、巨大工業団地を造る、外国から自動車工場を誘致する、新幹線を日本から持ってくるというような、昔ながらの巨大プロジェクトで労働者に仕事を作るという基本的な政策になっているんですね。オバマ前大統領やクリントン元大統領はベンチャーの経営者などの自由競争で経済は良くなって、人々の生活もそれに引っ張られるものだと考えているので、公共事業に大きな税金を掛けて所得を移転して…というのはあまりやりたがらないタイプです。

質問者A 小さな政府から大きな政府になったようにも取れて、アメリカの昔ながらの感じにシフトしたようにも思えますが。

春日 そうですね、今回そこが分からないところで、トランプ自身も分かっていないと思います。

小山田 補足すると、連邦政府の予算は大きく分けると、義務的経費と裁量的経費の2種類があります。義務的経費というのは社会保障費のような、大きな政府に繋がる費目を含みます。人件費や、毎年出ていく国債の償却費も義務的経費です。裁量的経費はその時々の方針である程度自由に決められるもので、今回の大統領予算案も基本的にはこの裁量的経費に関するものです。義務的経費に手をつけようと思えば法律を変えなければいけなかったり、色々手続きが必要なので、大統領が変わったからと言って簡単に変えられるものでもありません。トランプが産業界に支出する、防衛費も増やすとなった時に何処を削ることになるのか、義務的経費まで変えて本当に大きい政府にするのか、他を削って全体としては小さい政府を目指すのか。共和党本来の考え方は小さい政府なんでしょうが、どうなるのかまだ読めないですね。

春日 トランプには4種類の支持者がいるんですね。産業界と福音派、政府は小さければ小さいほど良いと言っているリバタリアンと、今回新しく共和党支持にシフトした工業労働者です。彼らすべてに共通するのが、福祉予算は削るべきだという考えです。例えば工業労働者は、福祉予算は全部マイノリティや働けない人に行くものだと思っていて、それをプロジェクト経費に回して仕事を作ってくれれば自分たちは体は動くんだから働ける、稼げるようになると考えている。今は仕事がないから稼げないんだ、と。色々なメディアや報道を見ると、そう解釈しているようです。福祉予算をとにかく減らしたい人は共和党支持で、そこから先、浮いたお金をどうするのか、大プロジェクトを打つのか打たないのかというのはトランプも、支持者も分かっていないような気がします。

小山田 インフラは増やそうという話ですね。

春日 増やすとは言っています。

質問者B 私自身も研究者で、AAASのメンバーでもありますが、AAASって国民のための組織ではないですよね。科学者のための組織であって、科学者の権益をいかに増やすかという組織だと思っているんですが、会場に行かれた時にはどんな印象でしたでしょうか?

春日 基本的にはおっしゃる通りだと思います。ただ、最終的な目的は科学者、科学研究者の自由のため、科学が社会に受け入れられるようにしようということでは確かにあるんですが、そうなるためにはもっと倫理的にならなければいけない、色々なルールを作ってそれを守らなければいけない、説明責任も果たさなければいけないとか、科学の研究が社会の各層に満遍なく還元されるように心を配らなければいけない、そういう感覚は恐らく共有されています。1969年にベトナム戦争に協力する科学者が多すぎるというので学生たちがAAASの年次大会をジャックして麻痺させたことがあったんですが、それをきっかけに開かれた会議で、倫理的に正しい科学者というのはどういうものなのかというレポートが出されました。そういう検討が繰り返されて、今回の大会でも最新の事情を反映して科学者の倫理的な在り方を問い直すようなワークショップが複数ありました。最終的には当然自分たちの利益のためではあるんですが、その為には最低限守らなければならないルールがあるよねというところで社会とすり合わせをするための組織という側面が強いと思います。

質問者B だから逆に言うと、飽くまで自分たちのためですよね。自分たちのサイエンスで社会を変えようとか、そういう発想はあまりない。教育や政治や、色々な分野に踏み込みはしても、全て自分たちの科学が絶対だと考えているように思える。

小山田 そうですね、組織名でAmerican Association for the Advancement of Science、『サイエンスのアドバンスメントのための』と言っているくらいですから。ただ当事者である科学者がその中に入っている。

先ほどのポリシーフェローシップのようなものを彼らが何故やっているのかと考えると、社会から支持がなければ予算も来ないし、若い人も入って来ないからです。フェローシップは73年に開始されたという話がさっき出ましたが、73年がどういう年だったかというと、大統領の科学補佐官という制度が1度なくなった年なんです。戦時中、1940年代にヴァネヴァー・ブッシュ(Dr. Vannevar Bush)という人が初代の補佐官になって、以来続いてきた制度だったんですが、73年、ニクソン政権下で途絶えて行政から科学がはじき出されてしまった。この危機感に反応してポリシーフェローというものを作って、予算や法律が作られる場所にはやはり科学が必要だろうということで、最初はほんの数人を議会に送り込むところから始まっています。

もう1点、ポリシーフェローのお金がどこから出ているかなんですが、派遣先によって2つのパターンがあります。議会への派遣と、Executive Branch(行政府)への派遣では性質が違っていて、議会への派遣の方は学会が払っています。物理学会、化学会とかそういうところがAAASにフェローシップ用のお金を入れていて、そのお金からフェローの給料が出ています。議会、議員側の支出はゼロです。AAASは議会、議員に対して、『デスクとPCさえ用意してくれれば有能なスタッフが行きますよ』という宣伝をしています。行政府への派遣の場合、派遣者の選定まではAAASが行いますが、フェローの給与は原則的には各省が払って、行政府のスタッフとして雇用するという形になります。

議会フェローのお金を何故学会が出しているかというと、当然ながら自分たちの科学は意味があるものだから予算をつけてくださいということを筋道を立てて正当化、説得するためです。議会・議員サイドとしても、70年代は冷戦のど真ん中ですが、核戦争が起こった時にどうなるのかは科学でないと分からないことでした。専門家に来てもらわなければ自分たちは意思決定を下せなかった。そういう関係性で成り立っていたところはあります。

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  1. トランプ・ショック――アメリカの研究開発関連予算の大幅カット
  2. トランプ政権を生んだもの:アメリカの政治・宗教事情
  3. 2017年2月、AAAS年次大会出席報告
  4. アンチ・トランプで科学者結束。細かな論議には温度差も
  5. フロアディスカッション その1
  6. フロアディスカッション その2
  7. フロアディスカッション その3:AAASポリシーフォーラム参加報告
  8. フロアディスカッション その4(終)