ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(1)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。

トランプ・ショック――アメリカの研究開発関連予算の大幅カット

トランプ政権の発足前、アメリカの政治はどちらかと言えば、科学的な知識や客観的な事実を重視する、evidence-based(“根拠に基づく”の意)の考え方を採ってきました。1976年に大統領府に設置された科学技術政策局は、政府の主要な政策の立案・施行に際して大統領に科学的な情報を提供したり、助言を行う機関であり、例えばオバマ政権では気候変動への取り組みやエネルギー戦略に大きな役割を果たしています。当時の長官ジョン・P・ホルドレン氏(Dr. John Paul Holdren)は元々気候変動や人口爆発の専門家で、AAAS(アメリカ科学振興協会、詳細はこちら)の理事会の元議長でもありました。政治と科学は密接な協力関係にあり、科学的知識は政治的決定の場で積極的に活用されてきました。

ところが現在、トランプ氏はホルドレン氏の後任を未だ任命しないまま、地球温暖化に懐疑的とも言われるスコット・プルーイット(Edward Scott Pruitt)氏を環境保護庁の長官に任命してオバマ政権時代の温室効果ガス排出制限Clean Power Planを撤廃するなど、科学の軽視、若しくは科学より国内の雇用や経済を重視する姿勢を示しています。

小山田 3月16日、トランプ大統領が就任して初めての、次年度2018年の大統領予算案の骨子が、”America First: A Budget Blueprint to Make America Great Again” ということで発表になりました。この内容が非常に科学者コミュニティにとって衝撃的だった。多くの研究開発予算が減額されることが明示されていたからです。

詳しい中身はどうだったのかといういうことでAAASが早速分析していまして、まず全体の予算の中で、防衛予算を10%増やす。一方、それ以外のところは全体的に10%減らすという話になっています。細かく見ていくと例えばエネルギー省、Department of Energyでは、エネルギー関連研究を40%超減らしましょう。特にARPA-E(エネルギー高等研究計画局)という、先進的・革新的なエネルギー技術開発に取り組むプログラム、これは100%の減。気候変動問題に関してはかなり厳しくなるだろうとは就任当初から言われてはいましたが、研究開発プログラムを50%以上削減、日本の環境省にあたる環境保護庁の予算も30%削りましょう、と。これは人員の削減なども含めた全体の予算を3割削るという話ですが、その中でも研究開発プログラムに関しては40%以上減らしましょうと言っています。アメリカの中でも非常に重要な影響を持っている国立衛生研究所(NIH)は全体に対して18%減。NIHの下にフォガティ国際センターという、アメリカで博士号を取った途上国の人たちが母国に戻って研究所を立ち上げるような、国際的な衛生・保険プロジェクトの支援を行ってきた組織があるのですが、これは廃止にしましょうと。アメリカの研究全体にかなり影響が及ぶ予算案になっています。

ただ、これは歴史上初めてのことなのかというとそうではなくて、1980年代、レーガン政権の時にも似たような予算削減がありました。SDI(戦略防衛構想)という言葉も有名になりましたが、国防予算を増やした代わりにエネルギー関係の予算などが削られています。

その時と今回の予算削減をAAASが比較したところ、例えばエネルギーだけで言えばレーガンの時の方が今より厳しかったという話もあります。ただ、NIHやEPA(環境保護庁)、そのほかの標準研究所の予算の減り具合を見ると削減の幅は今回の方が大きい。レーガンの時は国防省の科学研究予算は増えたんですが、今回はそれもどうなるかわからない。National Science Foundationと言って、基礎研究を支援している、日本で言えば科研費に近い種類のプログラムを持っている組織があるんですが、それについてもまだわからない。そういう現状です。

今回のScience Talks LIVEのテーマはずばり科学と政治家です。アメリカの大統領制度の特徴として、良くも悪くも大統領が変われば政治ががらっと変わります。政治の大きな環境変化が、予算にも反映されて科学研究にも影響してくる。

トランプ政権の誕生の時どこかで言われたんですが、戦後初めて科学に関心がない、もしくはアンチサイエンスの大統領が誕生したと。その一方で、この後の春日さんのお話にも出て来るとは思うんですが、トランプ政権というものが誕生した背景には、アメリカの社会や経済、宗教、人口構造などの大きな変化がありました。この変化自体に対しても、科学コミュニティとしてどうやって対峙していくのかを考える必要があります。

もう1つ、トランプ案が今回出たわけですが、これには今後議会との間で調整が入ります。アメリカの大統領制は議会による抑制と権力の均衡の中で行われるもので、既にオバマケアの代替法案については議会の反対で取り下げられました。今回の案も今後どうなって行くのか、今後の課題として注視する必要はあります。

このようなドラスティックでダイナミックな変化の中で、科学コミュニティが政治に相対して来たのがアメリカです。この後春日さんにはアメリカの科学コミュニティが今どのような議論をして、どういう問題意識を持っているのかをお話しいただきますが、日本のコミュニティとしてもそこから学ぶことはないのか、仮に同じようなことが起こった時に日本の科学コミュニティはどういうふうになるのかというのも、頭の体操的には議論していきたいと思っています。

AAASがどういう組織で、実際どういう活動をしているのかというのは以前、AAASの国際部長、トレキアンさん(現:国務省科学顧問)にインタビューをした記録がブログの記事として残っていますので後で見ていただければと思います。

それでは春日さん、よろしくお願いします。

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  1. トランプ・ショック――アメリカの研究開発関連予算の大幅カット
  2. トランプ政権を生んだもの:アメリカの政治・宗教事情
  3. 2017年2月、AAAS年次大会出席報告
  4. アンチ・トランプで科学者結束。細かな論議には温度差も
  5. フロアディスカッション その1
  6. フロアディスカッション その2
  7. フロアディスカッション その3:AAASポリシーフォーラム参加報告
  8. フロアディスカッション その4(終)