「ポスドク就職難民問題と日本のアメリカ化」内閣官房健康・医療戦略室 次長・菱山豊氏インタビュー(7)(完)

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菱山豊氏インタビューシリーズ7回目!
シリーズ最終回。アメリカにならって日本でもポスドク制度が導入されましたが、多くの課題に直面しています。未来の研究者にとって推奨される“日本型”の環境とは?

 

【湯浅】 ポスドク1万人計画以降、ポスドクの就職難民の問題も深刻になっていますね。任期つき採用で、安定したポストがなく、将来の不安を抱える若手研究者があふれています。

【菱山】 日本には以前はポスドク制度がなかったんですよね。制度がない時代には、研究ポストが得られない博士取得者はオーバードクターになっていました。だから大学院にいたら大変なことになるといわれていた時代もありましたが、今は博士課程が終わった後にポスドク制度で数年間に武者修行するというシステムになっているんですよね。アメリカの制度を採用したということですが、そもそもはアメリカでポスドクを経験した研究者からの要望で日本でも採用した制度だと思います。

【湯浅】 任期つきなので安心できない、5年後に仕事があるかわからないからおびえながら研究をやっている、科研費も3年単位なので切れるかもしれない。そんな話を聞いていると、日本の研究環境がアメリカ的なシステムを学んでどんどん競争的になっていますが、このやり方が日本の国民の気質とどれぐらいマッチしているのか、という疑問もわいてきます。

【菱山】 すごく競争的になっていますよね。ポスドク制度に関しては、アメリカの基本的な雇用契約システムは、日本の一般的な雇用の契約法体系とかなりちがうので、採用するときにもかなり日本向けにカスタマイズしたつもりでも、まだうまくいっていないところはあるのかもしれないですね。ただ、米国でも欧州でも、研究以外の道を選ぶというポスドクも多いので、そういうことも考慮する必要があります。

【湯浅】 今研究環境がますます競争的になっていますが、これが進むと最終的にアメリカのように研究者が競争的資金で自分の給料までまかなうシステムに変わっていく可能性はあるのでしょうか? 大学はあくまで運営交付金で教育のための資金を払い、研究力の高いお金を自分で取ってこれる人たちだけが生き残り、その他が淘汰されていく時代が来るのでしょうか?

【菱山】 運営交付金の大部分は人件費と聞いています。

【湯浅】 今その運営費交付金は年々下がっていて、一方で科研費の額が上がっている。私の解釈では、すでに大学にいる人たちを削ることはできないので、新しく入ってくる人の蛇口を閉めることで人件費を抑え、運営費交付金を無くして、研究にかかわるお金は自らの給与を含めて科研費で個々の研究者がとってくるやり方に転換しているように見えます。

【菱山】 そのやり方(運営費交付金をなくすということ)もあると思いますが、そこまで極端にする必要はないと思います。アメリカには国立大学はなく私立が中心なのでそういった極端に競争的なやり方をせざるをえませんが、日本は違います。国立大学の役割って何? という点を考える必要があります。

【湯浅】 完全なアメリカ型は日本にはそぐわないと。

【菱山】 そう。日本の大学って、そもそもの起源はアメリカではなくヨーロッパを導入しているんですよ。特に、当時研究で伸びていたドイツの大学の講座制が元になっている。近年はアメリカ式のやりかたも採用されていますが、欧州や日本的で培ってきた良い部分は残す必要があって、アメリカの大学と同じのようなレベルの競争環境を作ることが本当にいいのかを考える必要はあります。

【湯浅】 今回のシンポジウムの参加者の中には、「政策を決める方と研究者がしっかり自分たちの本音をぶつけあって議論をする場を求めている」といった声がいくつかありました。菱山さんもシンポジウムで研究者や大学経営者のかたがたと議論をしていただくことになりますが、今回の議論のご登壇者についてはどういった感想をお持ちですか?

【菱山】 熊本大学の谷口先生がご登壇されますが、谷口先生は私も若いころから注目していました。先生は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、私は訪ねたことがあります。当時は新進気鋭の化学者でしたが、その当時から光っていました。今の熊本大学の経営を見ても、研究に関する経営はすごいなあと感心します。九州のなかでもブランドを保ってらっしゃいますよね。豊田先生には財務・会計センターの理事長をされていたのでお世話になりました。地方大学の経営で鋭い指摘をされています。

【湯浅】 なるほど。

【菱山】 宮川先生も存じ上げていて、私は実は宮川先生の研究のファンなんです。研究者としてきわめてエレガントでシャープな研究をされる方ですよね。神田さんは、文部科学担当の主計官として予算を担当されており、その後も鋭い発信をされている論客です。主計官は、文部科学省全体を俯瞰できる立場にいますので、多分視点も私とは異なると思います。

【湯浅】 そうでしたか。どんな議論になるか本当に楽しみです。

(インタビュー完)