「ビッグ・プロジェクトの寿命は20年 」

中部大学理事長・飯吉厚夫氏インタビュー(6)

「ビッグ・プロジェクトの寿命は20年 」
飯吉厚夫氏インタビューシリーズ6回目!
長期的に莫大な費用を要するビッグプロジェクトは予算を獲得できない小規模な研究の妨げになるという声も出回る中、同じ「釜の飯」をうまく分配する方法が求められています。研究を継続し、引き継ぐためには何が必要なのか。


【湯浅】
 中部大学の「石狩プロジェクト」は、資金繰りで文科省でなく経産省が入ったという部分がとてもレア・ケースですよね。普通は大学への研究費というと文科省が出すものだと思っていましたが。

【飯吉】 もっと省庁の縦割りを崩すべきですよ。また、崩していかないと、この「石狩プロジェクト」だって文科省だけが資金源だったとしたら、「いや、そんなのは基礎研究じゃありませんからお金出せません」ということになってしまうでしょう。

【湯浅】 そうですね。

【飯吉】 そうしたら、そこで終わりです。

【湯浅】 はい。

【飯吉】 そうしたら、どうしても経産省からお金をもらわないといけない。それなりにはいろいろ問題があるんだけど、その道を開いてくれたのが現財務省国際局開発政策課長で、当時文科省担当から経産省担当に移られていた神田さんなんですよ。だから、神田さんのような人がいて、省庁の壁を破ってくれないと困ります。

【湯浅】 そうですよね。ただ、お話を聞いていると、こういう産学連携のビッグ・プロジェクトも実用化する前の段階では文科省の予算から基礎研究である程度成果を出していって、芽が出ると経産省という形になると思うんですけど。

【飯吉】 そうです。

【湯浅】 もう一方で言うと、今の限られた国家予算の中で科研費も皆さんで奪い合っている中、今なにか新しいビッグ・プロジェクトを仮にだれかが主導でやろうという話になったときに、「そんなビッグ・プロジェクトなんてうまくいくかどうかわからないんだし、そんなことをされたら我々の予算が減ってしまうんだから、そんなものは無駄遣いだ」と思われる研究者の方がもしかしたらいらっしゃるかもしれないと思うんですが。

【飯吉】 それは多いと思う。

【湯浅】 今回、イベントに参加される方の中には、おそらく、研究をやりたいのに研究費がほとんど与えられず、科研費が1円でも多く欲しいとか、なんで世の中には一方で何百億という予算を使っている人がいるんだと思っている方もいらっしゃると思います。

個人の基礎研究者に研究費を広く浅くばらまくことと、多額の予算を投じたビッグ・プロジェクト。そのバランスをどうとっていくかが問題だと思うのですが、どのように先生はお考えですか。

【飯吉】 結局、「釜の飯」の量は決まっている。その決まった量の釜の飯でできるだけいろいろな分野で国際的にも貢献できるような研究をしていくという話と、釜の飯の量そのものを大きくしようよという話と、この問題には2つあると思うんですけどね。

もう釜の飯は一定で、その中でいかに分け合うかということなら、やっぱり他の研究にも資金を回さないといけません。問題はその回し方です。だから、1つのビッグ・プロジェクトをいつまでも続けていていいのか、という話はあるんです。私が所長のころ一番悩んだのは、ビッグプロジェクトのライフタイムというのは、どのぐらいなんだろうかということなんです。私はやっぱり20年ぐらいだと思うんです、20年がピーク。

【湯浅】 それは、分野に限らずですか?

【飯吉】 それくらいで、だいたい人も代わるじゃないですか。やっぱり人が代わったら、もう最初の初心は忘れられるんですよ(笑)。

【湯浅】 なるほど。

【飯吉】 だから、代わったほうがいい可能性はありますね。今あるビッグプロジェクトの中で、さらに新しいものをやるという。そのかわり、古いものはやっぱり場所を譲るということはしないといかんでしょうね。どうしても一度はじめるとどんどん大きくなっていくから。

【湯浅】 一度成功したものが場所を譲るのは確かに難しそうですよね。

【飯吉】 そこは多分、神田さんがよく言われる「選択と集中」ね。

【湯浅】 はい、おっしゃっていますね。

【飯吉】 そこで続けるかどうかの「選択」をするというか。「もうこの辺でこの研究は一応峠を越えたね」というような評価は必要じゃないですかね。

【湯浅】 はい。

【飯吉】 ところがいまだに昔の名前でずっと出ているから(笑)。で、人も代わっている。やっぱりその辺の評価というのは難しいんですけどね。一応文科省は定期的に見直しをやることになっているんですよ。大切なことは、研究所自体がいかに変身するか、次の研究計画にいかにつなげていくかを考えることでしょう。

それがうまくいっている例は、同じ大学共同利用機関である国立天文台のケースです。「すばる」から「アルマ」の国際協力へと発展しました。

【湯浅】 なるほど。

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