9月11日開催サイエンストークス・バー with 岸輝雄氏~日本の科学技術政策の課題(2)研究開発費と研究不正・倫理について

2014年9月10日に「緊急企画!サイエンストークス・バー with 岸輝雄氏(元・理化学研究所 改革委員会委員長)~日本の科学技術政策の課題~」を開催いたしました。ゲストには研究者・マネジメントとしての立場から科学技術政策に長く関わり、また理化学研究所の研究不正再発防止のための改革委員会の委員長も務めた、新構造材料技術研究組合、理事長の岸輝雄氏を迎えました。モデレーターは政策研究大学院大学の小山田和仁氏。日本の科学技術政策の話を中心に、研究者の人材育成やキャリアから、研究開発費や研究不正まで、日本が抱える問題点について様々な視点からお話頂きました。

研究開発費について

小山田 次は研究開発費についてです。色々な見方があるのですが、主要国における研究開発の総額の推移をみていきます。これは民間も含めた研究開発費のデータになっていますが、日本はこの赤い線ですね。大体17.4兆円というのが年間、GDPの大体3~4倍というのが今のところです。急激に伸びているのが中国。米国は相変わらず1位をキープしている、というのが今の状況です。日本はグーッときてこの辺で伸びていますけども、ちょっと下がって伸び悩んでいるというのが今の状況です。国が第一次科学技術基本計画から数値目標の設定して、公的研究開発投資を増やしてきました。

今、状況としては補正予算を積み上げていますが、研究開発費に関してはグーッと伸びているわけではなくて、フラット化していますね。その中で、これがトータルの数字なのでこれ見たときの先ほどのフラット化というのが分かりやすいと思います。グーッと伸びてきていて、2004年、2005年から1つのピークです。だいたいで水平でほぼ毎年あまり変わらない金額ですね。ただ、かつての公共投資のようにグーッと減るようなことはなく、ある程度維持されているということはいえます。

省庁別の科学技術関係経費でどこまで出しているかの出どころの所なのですが、この青い所が旧文部省、ここが旧科学技術省で2001年に合わさるのでこの黄色い数字になっているところがあります。次のプレーヤーは経済産業省でこの青いところですね。その他の省庁はこれということで、だいたい日本の研究開発費のだいたい6割くらい。6、7割くらいが文部科学省の予算というのが日本の構造です。

分野別になりますけど、先ほどありましたけれども「エネルギー」が緑の部分、「ナノテクノロジー」が紫の部分、環境がこれだいたいこれくらいが環境、エネルギーの部分になっています。ライフサイエンスが今このくらいということになっていますが、ライフサイエンスの拡大というのはもう少し前からありますのでこの推移でドラスティックにグーッと増えているそのような背景があります。あと社会基盤やフロンティアという形でこのあたりに「宇宙」とかそういったところが含まれている数字となっています。

翻って、米国の状況を見ると圧倒的に国防が多いのですが、国防は特殊な所があるのでこれを除くと、他は先ほどあったようにライフサイエンスがあります。「一般化学」、「NSL」ですね。「エネルギー」がここにありまして、「宇宙」、これは「NASA系」という形になっています。

他に競争的資金をグーッと増やしてきたというのもあります。その代表例として科研費の所もあります。過去10年で約2倍になっているというところです。ここは基金化の影響があるのでビューっと飛び出ていますけれど、だいたいこれくらいの伸びと見ていただければと思います。この一方で、基盤的経費というのは減ってきていて、大学や研究所にボンっと与えてこの中で分けてねという形よりは、競争的な環境によってそこからでてきたプロポーザルにお金をつけるという環境がなっている、というのが今の研究費の状況です。

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 先ほどのポスドク問題と同じなのですが、競争を促すのはいいのですが、競争的資金でそれが増えた分、いわゆる大学にくるお金、研究所にくるお金が大幅に減っています。2001年、私が物質材料研究機構に行ったときにダイレクトに政府からくる運営費交付金というのが176億円ありました。昨年の同じ研究所、ほとんど人数が同じで122億です。ですから、この間50億以上減ってしまいました。人件費と光熱費、その他、維持費で大体100億円くらい飛んでいきます。ですから研究費が最初は70億~80億あったのが、今20億ちょっとになっています。

何が起きるかというと競争的資金を皆取りにいってしまうのです。トータルは相変わらず180億くらいあって、少しは減ってはいるのですが。そのようなお金が研究所に入っているからいいだろうという言い方もできますが、今度はまとまった仕事ができないのです。研究機関の場合は研究所にくるお金が少なくて、みんなJST、JSPSのプロジェクトをとってくると、皆、顔がJST、JSPS、NEDOへ向いてしまいます。そうすると研究所のプロジェクトや研究所のミッションっというのがはっきりしなくなります。

私が辞めた2009年頃、すでにお金を取りにこちらに顔を出すのは、外で金をとれない、資金が得られないという人ばかりだったのです。ですから、政府から直接くるお金はそのような人に回って、できのいい人はちゃんとプロジェクト費用を自分で獲ってくるから、お金をくれとはいってきません。そのかわりに場所が欲しいというのです。競争的資金は、今完全に限界の状況にあるといえるでしょう。

それは中の話ですが、全体の予算は少々緩和気味ですね。飽和気味のところはドイツもそうなのですが、最大の課題は日本の論文数や引用の数ですね。世界の割合でいうと、先進国の中では急激に日本だけ落ちています。全体の数は中国から稼いでいますから、世界的に全部落ちますが、急激にその割合を落としているのは日本です。これは長期的にみると日本の科学技術は非常に心配ですね。イノベーションといっても、やはり論文数が減ってきて引用数も減るというのは多分危険だなという気はしています。

小山田 ありがとうございます。やはり先ほどキャリアのところで図に示しましたけれども、競争的資金によってまた雇われる人たちが多いということで、結局、研究所や大学での任期付きの任期のタームがあるとともに、自分の給料がでるお財布の方でもまた別な区切りがあります。そして、それが必ずしも一致していないということと、二重の縛りがあるわけです。それがまた研究者の行動に変化を与えているというところがあるというところになります。岸先生、理研の中でもそういうところがあって大変だという話もあったと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

 結論からいうと、資金と任期付きに関しては、落ち着いた環境を作る以外ないので、今が限界だというのが日本の科学技術の現状という気がします。理研の話は非常に特長的です。例えば今回、問題が起きたCTPですが、数え方も難しい。250とも400ともいうのですが、研究者、センター長、副センター長も入れて全員、任期付きです。そのような状況が本当にお金さえあれば、かえっていい刺激になるのか、落ち着かないのかというと、これはよく考えないといけない。
個人的には落ち着いた環境でないと研究はしにくいというのが個人的な見解ですね。あんまりパーマネントになってしまうと働かないというのは事実です。教授で研究なんか全くやらないという人はたくさんいますよね。本当は任期付きにすればいいのは教授というのはよく出てくるキーワードですよ。

そこは本当に難しいのですが、人の真似をするならばちょっとドイツの真似もいいかなと思います。ドイツは助手と日本流でいうと助教と准教授と教授がいますよね。同じ大学にいると昇級しないんです。私の知り合いは、「どうするんだ。ずっと准教授になってしまうじゃないか」といったら、「妻がそこで働いているから俺はいい」と。その代わり、准教授から同じ大学にいると教授にならないのですがクビにはなりません。だから、一生准教授の給料は65まで保障されます。そうすると、落ち着き方がちょうどいいぐらいかなと思いますね。だから、そのあたりを組み合わせて、現在では大学の助教にも任期を付けていますが、私個人はもう任期というのはいいことでないと思っています。そこは本当に皆で考えるべきところですね。競争はいいし、緊張もいいんですが、だけど、ちょっと限度を超えていますね。ここは科学技術の大事なところですね。

小山田 研究をする上では競争は不可欠であるけれども、そのポジションはある程度あって、さらに高みに登りたい、もしくはさらにいい所に行きたいということであれば業績をあげて移っていくという形での異動ということですね。

 人の真似するのはだめなんですよ。アメリカは大学がいいし、イギリスはサッチャーが国の研究機関を全部潰してしまいましたよね。ドイツは相変わらず研究所の方が大学より上位です。フランスは国の研究機関と大学を一緒くたにしたようなところがありますね。皆それぞれ違います。だから、どこを真似ていいというのはないですね。だから、何とか日本流をつくるべきですよね。その時に一番の根幹はやはり競争のあり方と任期の持っていきかただということを肝に銘じるべきということはいつも考えていますね。

研究不正と倫理について

小山田 次は研究不正と倫理についてです。先日、理研のアクションプランがでました。こういった新体制をつくっていくということで赤いところが新しくできる組織であるということです。
全外部有識者が過半数の経営戦略会議を理事長を元につくるとともに研究コンプライアンス本部を置くこと。また本部事務の中に監事監査室を設けると共に、各センターの下に研究倫理教育責任者を置き、それが本部の研究顧問コンプライアンス本部長のところで統括するというような形で研究生活審議役を置くという形になっております。

さらに理事長のところに報告するような形で運営改革モニタリング委員会というのを置く構造が理研のアクションプランとなるということになっています。こういった動きというのは、今後おそらく他の研究所なり大学なり、どんどん増えていく可能性があると思います。そのような流れが果たして研究そのもの、研究不正を防ぐことになるのか、さらに研究そのものの活動にどのような影響を及ぼし得るかについてお伺いしたいです。

 研究不正というのは本当のことをいうとある確率で起きますね。これは研究者側から言うと言い訳になりますが、ある仮説を立ててそれに向かってやはり実験をやると、こうあって欲しいというのはやはりあります。ですから、どうもこのデータは気に入らないからこの点を外したいというのはあったと思います。それから、点で結べばいいのでた、丸にするんですね。大きな丸にすると理論に乗るんですよ。こういうことは本質的にあると思います。ですから、その分と研究は本当につくりあげた不正という境目の難しさもあります。ここは、研究者としての自分が歩んだ中での反省でもあり、言い訳でもあるわけですね。

今日は理研ということなのですけれども、理研の場合、私たちは報告書を書きました。ただ、割と厳しい報告書だという言い方もあるかと思います。あえて理研のためにいうと、国の科学技術政策そのものの不備が現れたというところが非常に多いです。例えば、あれだけの研究所をつくって、パーマネントスタッフがいない。特に事務のパーマネントスタッフは研究所が5~6倍になったのに全く増えていません。事務っていうのはものすごく大事です。そのような意味では、理研も非常に不幸な道を歩んでしまった。ぶつかってしまった。というのは、今度はこれは研究者側から言うとある種の言い訳もあるなという気がします。

それに対して、理研の今度の対応が非常にまずかったのではないかというのが非常に糾弾したところです。成果の報告、問題が起きてからの対応、杜撰さなどですね。はっきり言って、研究所ゆえにこのような問題は科学者で研究するから他の奴は黙ってろという、ある種の傲慢さのようなものがあります。これは理研だけではなくて大学なり、研究者、科学者の中に必ずあります。そのようなものが強く表れたという気がしております。

ただ、今回の理研のアクションプランは確かに笹井さんの不幸な出来事があったということも含めてではありますが、確かに我々の提案がある意味で入り込んだ形でほとんど入っています。ただひとつだけ、責任を取るというような形にはちょっとなっていないという言い方もできます。

ただし、この問題を解決して責任を取ろうというような方向はいくつか見えるのではないかという気はしております。ただですね、一番大事なところは研究戦略会議です。これは外部委員と理事が同数加わって理研全体を考える。ここにどのような人が本当に入るかで理研の本気度がわかるわけですね。

それともう1つがコンプライアンス委員会、監査・コンプライアンス室、ここが山場なんです。我々は、監視委員会を置きなさいと言いましたが、監視はきついからモニタリング委員会にしたいと。同じことは同じで外部いいのです。これにどのような人を本当に置くかで、やはり本気度がでてきます。今のところは、割といいアクションプランになっています。皆さんにもこれからよく見ていただいて、理研の今後に期待してもらえればと思います。

今度のアクションプランについていえば、不正問題に関しては日本のある基準を与えるような割とできのいい書き物になっているという意味であえて優、良、可でいうと優と、いってしまいました。ただ、面白いですね、委員会というのは6人います。意見が非常に幅が広いです。ある委員は「こんなに理研は改革委員会のことを聞いていいのか」という意見も委員の中にはいます。そうかと思うとこれは全くだめだと。責任を取ってから始めろという人がいて非常に幅が広い。それが、あのような改革委員会なんかの意見なんだということもご理解いただきたいと思います。

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小山田 コンプライアンスというものが、どんどん制度化されていくという中で、個人の研究者はどのような振る舞いをするものでしょうか?

 15世紀以来、研究の世界においてある種のデータ捏造のようなものが、超一流の人でもどこかにあったのではないかという指摘がずっとされていますね。そこを変に厳しくやると、研究者は嫌になってしまうというのも事実です。ですから、その折り合いをみながら、やっていかなければならない。割と難しいところではあります。

ただ、研究不正を故意におこなったら、あなたは研究者の世界から追放されるということ。これだけは厳しくいいます。ストップのしようがないような問題なのですね。僕はあのノートはあんまり信用していません。ノートがなくてもいいんです。今はコンピューターの時代ですからね。頭の中に入っていればいいんですよ。だから、あれであんまり言いすぎるのも、問題だと思っていますが、やりすぎると、間違いなく研究はつまらないものになっていく。そのバランスをどこでとっていくか、この永遠の課題をどう設定していくか、それはやはり大学でいうと教授、研究でいうといわゆる上司の責任が非常に重くなってきますね。

ですからそういう能力が身に備わった人が上に立たないといけないです。ただ研究できるから上司になれるのかというと難しい科学技術のひとつの問題ができたのではないかと思います。

日本の科学技術政策の課題(3)参加者からのQ&A≫

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【サイエンストークスのイベントの詳細】

サイエンストークス・オープンフォーラム2014 日本の研究をもっと元気に、面白く~みんなで作る、「第5期科学技術基本計画」への提言~

日時:2014年10月25日(土)12:30 – 18:00 (※受付12:00〜)
場所:東京大学 本郷キャンパス(工学部)武田先端知ビル 武田ホール
参加人数:200名  参加費:無料

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