[研究+教育] × [情熱+狂気]=∞ [ムゲンダイ](8)

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Science Talks LIVE、第3回のトークゲストは京都大学・高等教育研究開発推進センター長の飯吉透氏。研究者にとって教育とは、研究時間を奪う厄介者――とは限りません。最先端の研究者こそ、 最新のプラットフォームを使って教育に貢献し、そこで得た知見を研究や人脈作りの訳に立てています。アメリカを含む複数の事例を交えながら、研究者と教育の上手な付き合い方について、また、日本の教育を取り巻く問題についてもお話をいただきました。

フロアディスカッション: 自由に学び、自由に生きていくために その3

質問者B すてきな講演ありがとうございました。大学生の田中です。先ほどレジャーランドということでおっしゃっていて、ディズニーランドもある意味レジャーランド、知っていらっしゃる方がいるか分からないですけどSEGAもジョイポリスいうレジャーランドを持っているんですが、ああいうレジャーランドってストーリーがあるんですね。ストーリーがあるからこそリピートが増えて、リピートが増えるから面白くて多様性が増えるという形になっているんです。私も実を言うと、これほどすごいものではないんですが、ちょっとした活動をやっていて。大学生の学際グループをつくってはいるんですが、そのときに何かストーリーとか動機付けがないとどんどん離れちゃうんですね。私の団体も来月あたりで2年か3年になるんですが、2年3年たつとどんどん離れていくと。つまんないとか飽きていく。てなると、今後京都大学では、こういう形のMOSTフェローなどにどういったストーリーを付けて学生に提供されていきますか。
飯吉 すごい質問ですね。まさにそこで今悩んでいる、最先端の部分です。駒井先生は第2期ですけれども、今もう第6期まで行ってて(註:2018年3月より、第7期が開始されています)5期までに修了した人も50人くらいになっています。AKB48だってあれくらいの規模になったらもう後はみんな自立型ですよね、だいたい卒業しますし、総選挙をやっても面白くない。各地にHKTとかいろいろ作っているというのはいいんですけれども、プロデューサー側がストーリーを作って行くということにある程度限界が出てきますよね。起業の難しさというのは、ベンチャーをつくるときに最初はみんな勢いが良いわけです。ストーリーが自由に描けるでしょ。今日いらしてる方でそういうことをやられた方もいらっしゃるかと思うので、だとしたら釈迦に説法ですけれども、株式上場したら株主の話を聞かなくちゃいけないとか、だんだんいろんな縛りが出てきて、自由にストーリーが描けなくなる。そうすると結局利益優先になってきたり、効率優先になってきたりする。
オープンエデュケーションの例では、例えば東大の花房君という、当時は学生さんがつくったmanavee(マナビー)というサービスがありまして。自分はすごく恵まれなくて、家庭教師もつけられなかったけど頑張って東大に入って、だからそういう、塾とか家庭教師とかをつけられないような家庭の子たちにただで受験勉強を教えてあげるというようなグループを作ったんですね。ところが、どことは言いませんけれども教育産業的なところがそれをパクって、何とかサプリとかそういうのを作って。関係者がいらっしゃったらすみません、いいんですよ、それはクオリティもコントロールされているし、いいものができていると思うんですけれども、NPO的に学生の手作り感でやっていた面白いところは全部潰れてしまって、今年の3月で店じまいになってしまった。
だからストーリーを描けないわけです、ビジネスモデルっていうのに入っていくと。花房君なんかはすごく忸怩としていて、自分は社会起業家として頑張ろうと思ったんだけど、結局結果は出せなかったと。でもそうじゃないと思うんですね。僕がよく言うのは、手術が成功して患者は死んだというのではいかんとはよく言われるけども、その逆、手術は失敗したけど患者はなぜか生き延びたというのなら場合によってはいいじゃないかと。つまりmanaveeが5年なら5年でプロジェクトとしての生涯を閉じたとしても、その間に関わってきた人たちの熱意であるとか、そこに感化された人、授益的に見ても、manaveeを使って勉強しましたという人が実際に京大にも入ってきているんですよ。例えば京大の1年生100人にオープンコースウェアを知っているかと聞いてみると知っているのは2人くらい。MOOCを知っているのが5人くらい。使ったことある人はと聞くと手が挙がらない。manaveeを知っている人って言うと40%とか50%くらい手が挙がるんですね。大学生がアマチュア的に教えている、しかもオネエ系の先生を探せとかそういう面白いことをしてレジャーランド化されていたわけです。そういうものの方が伝わっていたということ。ストーリーがあったんですよね、manaveeの方が。だけどそういうものを紡ぎ出していくというのはすごく大変で、持続させていく、永続させていくのはすごく難しいことだと思う。
スティーブ・ジョブズが死んじゃった後のAppleもそうですよね。ジョブズのプレゼンは現実歪曲空間とか言われてたじゃないですか。みんなをその気にさせちゃうと。できそうもないこともでも、できそうな気がしてくる。iPhoneとかを実際作ってしまったし、こういうものも作れるんじゃないかみたいな夢を描かせる。そういう人がいなくなってしまうと、その後はやっぱりなかなか夢のある製品は出て来ないし、みんなもそういうのを期待するのをやめていってしまう。
上杉先生の授業なんかは、夢を見させるという課題もそうだし、そういうことを自由にさせる訓練というのが、一番大事なところなんです。イリュージョンとか、空想とか、イマジネーションとかですね、そういう部分が今欠けている。コンビニとウォシュレットに責任があると思ってるんですけど、話が跳躍してワープ航法みたいで申し訳ないんですけども、適度で安価で心地良いという快適感に日本はみんな慣れてしまっていますよね。日本で一番良いと言われている大学の若い准教授の先生が、僕はウォシュレットのない国には絶対住みたくありませんと言ってたんですけど、そういう世代を笑えないと思うんですよ。コンビニにはみんな行きますし、100均も凄くいいですよね。100均もコンビニもウォシュレットも、僕も使ってますけれども。そういうのが快適だと思って、もうそれでいいじゃん、高収入でなくてもいいじゃん、と思う人が増えている。そもそもデジタルの世界になって、無料で色々なものが手に入ったりする時代で、欲がなくなってきている。物欲がまずなくなるし、他の欲もなくなってくる。何か欲があって、無茶な動きをしていると、何かもっと他のものに欲が出てきたりとか、欲の良い意味での連鎖反応というのが起こり始めるんですけれども、自分はもうこのくらいで良いんだと思い始めると、今度は逆の、ダウンスパイラルとはいいたくないですけれども、少なくとも同じこのループの中で回ってしまって、それでもいいや、となってくる。
でも同時に、さっき言ったような機械化とかAIの時代というのは、そういう中間層の人には非常に生きにくい時代でもあって。トランプが選ばれたのも、厳しい状況にいる中間層がいるからで、中間層の中が今すごく二分されている。そんな中で今考えるのは、グローバルやオープンが本当に良いものなのかどうか。オープン、グローバルに加えてAI、機械化が入ってくると、いろんな仕事が変わっていく。グローバルにオープンになれば格差がなくなるというような幻想があって、みんなやって来たし僕もその一部だったんだけど、実際にはそうなっていない。花房君のmanaveeにしても、社会的格差は全然解決されていない。相変わらず勝ち組が勝っている中で、どうしたらいいのかなあと考えるわけです。
一番必要なのは、目映すぎてもう見えないくらいの、光を放つようなストーリーや、オーラ。どれだけ良いストーリーを語るか、ストーリーをいくつ持っているか。ある意味ではホラなんですけど。『日本一のホラ吹き男』とか、刺激的ですよね。大学の研究フォーラムなんかで植木等の話をよくしているんですけど、やっぱり今必要なのはホラだと、大きなホラが吹けるような人間が大事だと。そうしたらまあびっくりしたのが、政府がAC広告で、『ライバルは1964年』なんて言い出しましたけれども。僕は1960年生まれなんですけど。
『ホラ吹き男』の植木等はある会社を受けて落ちてしまって、どうしてもその会社に行きたいからって守衛になるんですけれども、自分は絶対社長になるとまず断言するんですよね。ホラでしょ。だけどそこから始まって、そのうちに守衛から社長の運転手になって、そうすると社長にいろいろと、運転しながら好きなことを聴かせるようになったりして。そこら辺は木下藤吉郎的な話なんですけど、そこから大出世していくわけです。そういう非直線的な思考と、非直線的なアプローチ。すてばちになって、他の人が考え付かないようなことを、思い切ってやっていく。そういうことって、エリートコース的なところを登っていく人には苦痛ですよね。せっかくここまで上ったのに、こんなところに行きたくないよ、みたいな。それが先ほど紹介した黒川先生の、規制の虜ってことなんですけれども。ホラを吹くのも、ありえないような素晴らしい話をするのも、紙一重なんですよ。
駒井 ちょっとだけフォローすると、夢を持つことって難しいことだと思うので、若い人は夢を持つこと、としておきましょうか。
飯吉 ホラですよホラ。夢だと綺麗で終わっちゃうので。
駒井 そこで言うホラには意思がついてないとダメで。嘘をつきっぱなしではダメで、それをどうにかしていこうと思わないとダメですよね。
飯吉 ホラはホラーなんですよ、まあ駄洒落ですけど。
駒井 今日のテーマのタコツボ化するというのと通じるところがあって、私が何故教育に力を入れないといけないと思っているかというと、まさに今お話しいただいたように、ホラを吹くことではなくて、夢を持って未来を考える、LIFEを作るというところとも繋がると思うんですけど、夢を持って全体を見たうえで自分が何が出来るか、何がしたいのか。MOOCを始めたスタンフォードの皆さんが、やってみたらどうなるかなと思ったという、ああいう気持ちが大事なんだと思います。僕らが育てられた時みたいな、知識をたくさん入れて貰うという教育も大事なのかもしれないですけれど、それに加えて夢を語ったり、面白いからやってみようかみたいな、未来を動かしているということ、動かそうと思える気持ちのようなものが、これからの日本の教育にとって、世界もそうかもしれないですけど、大事なんじゃないかと思いました。
今日はすごく刺激的な、かつとてもスマートなお話をいただきまして本当にありがとうございました。ご意見やご質問があるかと思いますけれども、後ろに潤滑剤もありますので、よりスマートになっていただいて、情緒的繋がりというやつをはぐくんでいただければと思います。本当に今日は、ありがとうございました。

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  6. フロアディスカッション: 自由に学び、自由に生きていくために その1
  7. フロアディスカッション: 自由に学び、自由に生きていくために その2
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