[研究+教育] × [情熱+狂気]=∞ [ムゲンダイ](3)

Science Talks LIVE、第3回のトークゲストは京都大学・高等教育研究開発推進センター長の飯吉透氏。研究者にとって教育とは、研究時間を奪う厄介者――とは限りません。最先端の研究者こそ、 最新のプラットフォームを使って教育に貢献し、そこで得た知見を研究や人脈作りの訳に立てています。アメリカを含む複数の事例を交えながら、研究者と教育の上手な付き合い方について、また、日本の教育を取り巻く問題についてもお話をいただきました。

日本でも端緒についたオープンコースウェア:
何十万種類の教材が全て無料! その1

飯吉 アメリカにいたとき、カーネギー財団に勤めていまして、自分が発起人になって『Opening Up Education』という500ページの本を編纂しました。カーネギー財団でやった最後の仕事で、2005年くらいから2年半かかって、2008年に本が出ました。この頃にオープンエデュケーションが大きく伸びてきたわけですね。

さっきEの時代、Oの時代とあったと思いますが、Oの時代に出たものの1つに、オープンコースウェアというのがありました。僕はその当時、いろんな世界の人や大学、学生、UNESCOとかそういう組織とも一緒になってオープンエデュケーションに関して一生懸命やっていたんですけれども、どうして自分たちはこういうことをやっているのか、こういうものが将来、どういう風に広がって、どういう世界になっていくのかということをみんなで考えようとしていました。そのときに3つの要素として上がったのが、Technology、Contents、Knowledge。コンテンツというのはそれから10年近くが経って、今やすごいことになっています。ほぼ無料の、自由に使える教材が、本当に何万、何十万どころでなくたくさんあるんですね。

当初一番インパクトが強かったのは、一番当初インパクトが強かったのは2001年、同時多発テロがあった年ですけれども、ああいうひどいことが起きたのと同時に明るいニュースもありました。MITが自分たちの2000もの講義の教材を全部、インターネットでただで公開したんです。これは偉いとかそういうレベルではなくて、アメリカではすごいインパクトがありました。MITの学費というのは寮とかに住むのを入れると700万ぐらいするんですね。4年間で2800万です。イタリアのスーパーカーを3台くらい、フェラーリとポルシェとカウンタックとか買えてしまうくらいのお金がかかります。親としては涙目なんですけれども、それくらい払って、またはまたは奨学金を取って頑張った人しか使えなかった教材が突然オープンにされた。無料で誰でも使えるようになったなんていうのは天と地がひっくり返るような話だったんです。

今ではこれに共鳴して、いろんな大学がオープンコースウエアをやり出して、一転盛り上がってきました。京大も2005年からもう10年以上やっています。いろんなコース出ていますが、高校生辺りの食いつきはなかなか良くないですね。高校生はみんな受験勉強しかしないので。でも本当は、大学に入る前に少し、どういうことをやるんだということを知っておいてもらいたい。本当はそれで志望校を選んでもらえたりとかしたいんですけれども、彼らが見ているのは偏差値だけで、自分の偏差値がだいたい幾つだからここから選ぼうかなみたいな、商店街のくじ引きであなたは何等だから賞品はこの箱の中から選んでくださいみたいな、そういう感じで選んでいるというのが現実なんですね。

オープンコースウェア、OCWに代表されるオープンコンテンツですが、4年前に大きな動きがありました。それがこのMOOC(ムーク)、Massive Open Online Coursesですね。人工知能ニューロンというのを教えていたスタンフォードの先生が、それまでは1年間で200人くらいの学部生を教えていたという方なんですが、これをインターネットで無制限に誰でも受けてもいいということにしたらどうなるだろうね、ということで単なる興味で始めてみたら、10万人以上が登録して、そのうちの7000人ぐらいが修了証まで取ってしまった。スタンフォードでやっているのと同じぐらいのレベルで、課題もやって。今までスタンフォードで1年に200人が受けていたコースを、1年で一気に7000人、35年分もの人がクラスを取って、最後まで行けたんです。これはすごいということでブームになって、すぐにMITがオープンコースウエアを始めました。新しいものが出てきたぞ、俺たちもMOOCというやつをやらないと、という感じですね。それでスタンフォード対MITの戦いが始まった。

東海岸と西海岸の争いでもあって、スタンフォードが中心になって始めたのがシリコンバレー発のCoursera。こちらは営利のスタートアップで、企業が出来ました。もう1つがMITとハーバードが中心になって作ったedXで、こちらは非営利です。WindowsとLinuxの違いみたいに思っていただければ。

ただどちらも、出しているコースはみんな無料でやっています。最近面白いのは、これまではMITがOCWをやったらしい、MITはすごいねというような話だったのが、先生1人1人に目が移ってきたことですね。土俵の上の力士が誰か、誰がホームランを打ったのかというような話で、組織から個人のレベルに話がシフトしてきています。

2012年にニューヨークタイムズ紙が、これをムーブメントとして名付けて1面で出しました。同じころ、僕が帰ってきて2年目くらいでしたけれども、日本でも当時まだ夜7時半にやっていた『クローズアップ現代』に取り上げられました。『あなたもハーバード大へ 名門大ネット講座』という回ですね、いやなタイトルでもう少し何とかならないのかと言ったんですが、視聴率を取るためにはハーバード大学と書くといいんですよと言われて泣きましたけれども。マスコミ業界というのは大変ですね。番組の中で紹介されたのは、こういうMOOCみたいなものは、本当に小学生から90歳のお年寄りまで誰でも取れるわけです。学びについて今まではありえなかったような人たちがそういうのを取ったり、修了できたり、そういう成功談みたいなものがたくさん出ていました。

僕も実は何度かMOOCを受けて、いつも2週目くらいで脱落しているんですね。息子にもやれと言ってみたら、息子は根性があってちゃんと取ったと言っていて。今は海外の大学に行っちゃいましたけど、親ばかの自慢をしたい訳ではなくて、彼は海外の大学にアプライするときに、こういう修了証を持っているということをちゃんと書いていたわけです。それがどれだけ評価されたかは知りませんけれども、少なくとも日本の大学の受験のときにはこういうものは一切認めてくれないというか、そもそも入試のときにこういうことを書く項目がないですから。アメリカの場合は、ご存知のようにあまり試験が中心ではなくて、面接であったりエッセーであったり、その他いろいろ自分がやる気があるということ、学んでいるということを証明するものをどんどん出してください、何でもいいですよというようなことがあって初めて、こういうものが生かされてくるという話なんですよね。

MOOCのコースは京大でも2013年に始めまして、一番最初に出したコースがこの”Chemistry of Life”です。ライフサイエンスの分野ですが、まずはこれを見てください。

【動画】
Motonari Uesugi(in video, 上杉志成、京都大学物質-細胞統合システム拠点副拠点長)“Creative and innovative ideas are essential to success in any business. However, few of us have had the opportunity to take a course on creative ideas. In high school education, chemistry and biology are usually treated as several subjects. In university education, however, separate disciplines are often integrated into a single discipline in which many different ideas can be created. This edX course focuses on integrated field between chemistry and biology, which allows you to learn how to create new ideas. –“

飯吉 こういう感じで、映画で言うとトレーラーみたいですよね。最初に開講されたのが2014年で、今までに3回やったんですが、上杉先生は毎年これを作ってくださってて。

Uesugi (in video) “In taking this course, I invite you to enroll the world of chemistry and biology. I want to share my personal experiences as the scientist both in Japan and United States. The Chemistry of Life will change your life!”

飯吉 少しずつ改良していらっしゃるんですが、最後に出てきた漫画の少女、子どもが見て分かりますかね? 駒井先生、いかがでしょう。

駒井 メルモちゃんですね。

飯吉 高校生とか大概知らないと思いますけど、赤と青の薬、飴があって、それで自分で年を調節できるという。何故これが出てきたかというと、上杉先生は小学生の頃にどうもメルモちゃんが好きだったらしくて。自分が化学の道、薬学の道に進んだきっかけはメルモちゃん、みたいな話をちょっとされていたので。じゃあメルモちゃんを出してあげるということで手塚プロに相談して、お金を払って、夢の競演なんですね。すみません余談です。

このコースではビデオで説明があったように、化学や生物の知識を教えるわけではなくて、新しいものを発明したり、新しいアイディアをひねり出してそれを製品化したり、そういうテクニックとか、ものの進め方を教えてくれるということですね。その内容も大変奇抜なもので、例えば最初にやったときには、2万人くらいの人が世界から来たわけです。その2万人に対してこれをやれと最初に出したお題が、ここに世界で有用な薬の化学構造式が100あります。好きなものを選んで、その薬の効用に合ったマスコットを構造式の形に合った形で書いてみてくださいと。幼稚園なんだか何だか分からないような課題ですけれども。例えば抗うつ剤だったら、女の子が床でブレークダンスをくるくる回ってうつが治った、というような。上杉先生がなぜこんなお題を出したかというと、うまくできたら製薬会社にマスコットを売り込もうと考えいてたらしいんですが、ちょっと忙し過ぎてなかなかできなかったようで。世界中からこんなものが何千も送られてくるのを見て、一緒にやってる側としては驚嘆して、これはすごいことになってきたなという気がしました。

こんなことばかりしているわけではなくて、ちゃんとした授業もやるわけですけれども。何か面白いことをやろうということで、このコースを受講している、世界の100ヶ国以上の人たち、何千人何万人という学生さんであるお題についてコンテストをしようということになりまして。お題を出して、それに対して自分はこんな風なことで新しい発明ができるとか、新しいアイディアがあるとかいうのを集めたんですね。その中から良さそうなやつをまず50、それから20選んで、最後の20に選ばれた人たちにはそれぞれ2分間、YouTubeでバーチャルのプレゼンをやってもらいました。上杉先生のところで一緒に見ましたけれども、審査をして、最後に選ばれた6人を日本に呼びました。

世界中からいろんな人が来ましたね。例えばアメリカの国立公園でパトロールのようなことをしているという人。奥さんが中学の理科の先生で、奥さんがこの上杉先生のコースを取るというので、僕もつき合うよと言って取ったら、なんとこの人の方が成績が良かったと。この人だけが日本に呼ばれて、奥さんは来られなかったので奥さんは怒っている、家庭不和を招いてしまった、そんなエピソードもありました。

フィリピンから来たエース君は、高校を出て大学に入ったんですが、家庭の事情で1年も経たずに辞めなければいけなかった。それ以来ネットカフェに行ってそこでMOOCを取りまくっていたということで、こんなことになるとはとかなりびっくりしていましたね。日本に来られて本当に感動してらして、4年近く経った今でも、Facebookなんかで「あの時の経験は」みたいなことを書いてくれている。いかに彼の人生にとってそれが刺さったか。

上杉先生はこの同じコースを、京大の日本語の授業として50人くらいの学生に教えているわけですけれども、この年はこのMOOCで選ばれた6人も一緒に、お互いのプレゼンや色々議論をしたりして、バーチャルとリアルが繋がったということですね。本も出ていますので、ご興味があれば。

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