小山田バーマスターのプレゼン:科学技術基本計画ってなに?―サイエンストークス・バー6月6日イベント報告(2)

「勝手に第5期科学技術基本計画みんなで作っちゃいました!」企画。作っちゃうもなにも、そもそも科学技術基本計画ってなに?聞いたことあるけどよく知らないよ、という皆さんのために、6月イベントでは目玉コンテンツとして政策研究大学院大学で科学政策を専門にする小山田バーマスターが科学技術基本計画のポイントと歴史を優しく解説する超ダイジェスト・プレゼンを行いました。

科学技術基本計画って何?

15分ほどのプレゼンをそのまま動画と記事でまとめました。まだ観ていない方、イベントで観たけれどもう1回おさらいしたい方、必見です。1995年以降の日本の社会的状況と国の科学技術の方針がいかにリンクしているか、施行された政策がいかに研究者の生活に直接影響を与えているかがかいつまんでわかる内容になっています。

― 科学技術基本計画って、そもそもどうして作られているの?

科学技術基本計画は、そもそも1995年に成立した科学技術基本法に基づいて作られているもの。科学技術基本法が成立したのは、バブル崩壊で日本が長い不況に陥った時代。また、地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災などが立て続けに起きた、若干暗い時代で、「日本は大丈夫か?」という時代の雰囲気だったかと思います。

「科学技術基本法」を簡単に説明すると、①科学技術振興のための方針を立てること、②科学技術振興に国と地方公共団体が関与すること、③総合的な科学技術基本計画の作成と、そのための予算を求めること、そして④そのための環境整備と人材システムの整備を行うこと、という4つが定められた法律です。この法律の③に基いて、5年ごとに科学技術基本計画作成され、そのための予算確保が行われています。

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― 第1期(1996~2000年)拡充の時代:政府研究開発投資の拡充とポスドク一万人計画

第1期科学技術基本計画のごく一部のハイライトだけ取り上げると、最大の目標は、政府研究開発投資の拡充でした。また、その中で有名な「ポスドク1万人計画」も位置づけられています。研究者の任期制任用の導入もこの計画の中で取り上げられています。

「政府研究開発投資の拡充」に関しては、科学技術振興予算は第1期の目標の17.6兆円を達成しました。その後に続く第2期、第3期の予算目標は残念ながら達成できませんでしたが、計画がなかった時代と比べると、科学技術振興予算はかなり増えていて、予算確保という目標は達成しています。ただ、厳しい国の財政状況が続いていて、この20年で国家の借金も格段に悪化しているのが現実。その苦しい財政状況の中でさえ、科学技術振興予算は守られ、確保されてきたということは言えると思います。

「ポスドク1万人計画」は、数字の上ではポスドクの数が年々増えていて、まさに計画通り達成したと言えます。ただ、ポスドクになった人たちがその後どうなるのか?という問題になると、常勤研究職を得られずポスドクからポスドクに次々仕事を渡り歩いている人がかなりいるという現実があります。博士が民間企業に就職するという道も海外と比べるとできていない。その結果として高学歴ワーキングプア、博士漂流なんてことまで言われてきています。

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― 第2期(2001~2005年)絞り込みの時代:戦略的重点化と競争的資金の倍増

第2期科学技術基本計画が制定された時代の雰囲気として、2001年にアメリカ同時多発テロ、そして第1期からなお続く経済低迷から抜け出せない日本の状況がありました。同時期に、それまでの計画組織を改組して、総合科学技術会議が発足しています。

その時代の第2期の特徴として大きいのは、戦略的重点化と競争的資金の倍増です。

戦略的重点化に関しては第2期から第3期と継続して国の研究開発の重点分野が指定され、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテク・材料という4つの戦略的重点分野と、エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティアという4つのその他の重点分野(推進分野)が指定されました。この分野の予算は計画通り伸びています。

競争的資金倍増では、科研費だけを例にとってみると、一部、基金化などの影響もありますが、着実に増えていると言えると思います。一方で、国立大学の運営費交付金の額は年々減少していて、基本的にはそれまで大学の研究者が公費でまかなっていた研究資金のほとんどを競争的資金でまかなわざるを得なくなっているという状況があります。

「マタイ効果」というものがあります。マタイ効果とは富めるものはますます富み、奪われるものはますます奪われるという現象ですが、重点化と競争化によって研究環境にそういう状況が生まれているのではないか?と言われています。例えば、日本の各研究機関への研究費の配分は、ドイツと比較するとかなり少数の機関にのみ資金が偏っている傾向があります。これが日本の研究全体にどういう影響をおよぼすのか?は考える必要があると思います。

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― 第3期(2006~2010 年)「政策課題達成型」を目指した作りこまれたプラン

第3期の時代背景としてはリーマン・ショックがあり、経済がますます危機的な状況似合った中、山中教授によるiPS細胞の樹立があった時期でもあり、科学にとっては明るいニュースもありました。

第3期科学技術基本計画はそれまでの計画とは打って変わって、非常に手間をかけて作りこまれた計画になっています。ハイライトとしては、「政策課題対応型研究開発」、「分野別推進戦略と戦略重点科学技術」、「科学技術システム改革としての人災育成、イノベーション、国際化」というテーマが入ってきました。

一例として人材育成を取り上げると、第3期には「女性研究者を増やす」という目標がありました。その結果どうなったかというと、これも数字の上では女性研究者の数は年々着実に増えています。ただ、海外と比べると、日本や韓国はまだまだ女性研究者の割合は男性研究者に比べて少ないのが現状です。また、女性研究者数は増えていても、上に行こうとすると「ガラスの天井」があるなどの問題や、女性にとって今の研究環境が本当に働きやすい環境なのかという点は議論があると思います。

また、第3期では世界トップレベルの研究拠点をつくろうという「WPIプログラム」が始まり、加速しています。

― 第4期(2011~2015 年)震災の時代:再生・復興と、課題達成型イノベーション

第4期計画が行われたのは激動の時代でした。自民党から民主党へ、民主党からまた自民党へと2度の政権交代が起こりました。少し時期はずれますが、民主党時代には事業仕分けがあり、研究開発に対する投資が非常に厳しくなったことがあります。ちょうど第4期科学技術基本計画の閣議決定される前に東日本大震災と福島原発事故が起こりまして、計画自体の策定が少し伸びたという背景があります。こうした社会的変化が第4期計画に多分の影響を与えています。

第4期科学技術基本計画は、これまでと作り方が異なっていました。「課題達成型イノベーション」として、震災からの復興再生、ライフ・イノベーション、グリーンイノベーションと3つのイノベーションを目標にあげていますが、これらは課題達成のために社会的ニーズ側から計画を引っ張ってくるという通常とは逆のアプローチが取られています。また、「社会とともに創り進める科学技術」、という章が別立てで作られていて、社会という視点が非常に強調された計画になっています。

イノベーションに関しては、安倍政権になってから第4期科学技術基本計画とは別に、科学技術イノベーション総合戦略というものが作られ、これが成長戦略とリンクされています。いずれにしてもイノベーションが重要な目標として掲げられていますが、「そうは言ってもイノベーションってどうやったら生まれるのか?」「どうやって進めていけばいいのか?」「今の日本の研究制度や大学の現状でそれが本当に実現できる土壌があるのか?」などが問われているのだと思います。

 ― 科学技術基本計画はだいたい達成している。でもうまくいっているかは別問題

こうして科学技術基本計画の歴史を紐解くと、計画したことはわりときちんと達成しているんです。ですが、総合的に見て達成した結果、うまくいっているのかな?と考えると、現場の声は違っていて、うーん、どうなんだろうと悩ましいんじゃないかと思います。

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― なぜ第5期科学技術基本計画を研究現場で話し合うべきなのか?

さて、なぜ今、「勝手に第5期科学技術基本計画みんなで作っちゃいました!」なのか?というと、今見てきたように、科学技術基本計画は、研究者が行っている日々の研究を支えている政策の根幹になっているからなんですね。

基本計画は向こう5年間の科学技術の方針ですが、研究開発への投資目標は、科学技術予算に対する政府のコミットメントとして常に議論になりながら進められてきました。ですが非常に国の財政状況が厳しい中で、次の計画でそれをいれられるのかどうか?が議論になるはずです。また、基本計画というのはそもそも政策・施策の予算要求の根拠として用いられてきた面がある。なぜこの施策が必要なのか?という話になる時「ここ(基本計画)に書いてあるでしょ!」と言えるからというのがあります。

内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が行っている第5期科学技術基本計画作成の今後のスケジュールでは、この冬に正式に計画を作る新専門調査会が発足して、第5期の計画づくりが始まる予定になっています。今は6月ということで、計画を具体的に作り始める前の段階のまだ非常にモヤモヤとしている状況です。

つまり、今、ここで計画に関心を持つ一般の研究者や市民からも一言、意見を出す必要があるんじゃないかと思いますし、今なら意見が反映されるチャンスが有るんじゃないかと思っています。科学技術基本計画は比較的長い時間をかけて作り込みますが、一度作ってしまったらもう変えられません。今ここで第5期にあたる2016年から2020年の計画にはいらない意見やアイディアを次に入れられるのは5年後です。なので、今ここで言うべきもの、伝えることがあるんじゃないかと思います。

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― 計画の作り込みには時間がかかる。だから意見をいうチャンスもある

国の政策というのは非常にショートタームで作られるものですが、第5期科学技術基本計画は比較的時間をかけて作るので、意見をいうチャンスはかなりある。日々研究をしている人や関心のある人、科学技術政策がメインの仕事じゃない人でも、うまくアイディアをまとめて作りこめば、意見をいうチャンスは有るし、本当に研究環境を良くして研究者を元気にするための意見を盛り込めるんじゃないかということで、「勝手に第5期科学技術基本計画みんなで作っちゃいました!」を一つのサイエンストークスのテーマに選んだわけです。

今の日本の研究にはいろいろな問題がありますが、その解決のために、研究者個人でできること、大学・学会でできること、国でできること、それぞれあると思います。それぞれにどう整合性をつけて、計画を作っていくかが今必要なんじゃないかと思っています。

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小山田バーマスターのプレゼン、いかがでしたか?次回はこのプレゼンを受けて、実際に第5期科学技術基本計画の作成に携わっている内閣府 総合科学技術・イノベーション会議の原山優子常勤議員による第5期計画の現状についてのプレゼンを振り返ります。

サイエンストークスの草の根的・研究者からの第5期へのアイディア集め活動、総合科学技術・イノベーション会議の皆さん、原山議員も、黙認・応援(?)してくださっている模様。現場・若手の声を反映したボトムアップ的な計画への提言をしていくだけでなく、同じように研究者、大学、企業、学会、それぞれが国の科学技術の振興に対する当事者意識を持ち、自分たちの持ち場でできることを模索していく、そのコミュニティを作ることが、この企画の趣旨でもあります。皆さんのご意見・アイディア、おまちしています。

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