「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(8終)

Science Talks LIVE、第2回のトークゲストは国立情報学研究所の宇野毅明氏。すぐに産業化の見込めない分野の研究者は社会の役には立てないのか? 科学と企業、社会が互いに手を携えて、新しいもの、価値のあるものを作って行くことができたら、それこそが「社会の役に立った」ことになるのでは? 研究者が社会で生きていく為に必要な考え方や資質を、ご自身のエピソードを交えてお話いただきました。

フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その4

質問者H(コジマ) ライターをしています、コジマと申します。楽しいお話をありがとうございます。今日のお話は社会に役立つ研究者というテーマだったんですが、社会に役に立つ研究者を育てるのに役に立つ研究現場みたいなものはどう作ればいいんでしょうか。どうやったらそういう人が出て来るのか、それは個人の資質なのか、ないんかそういうトリガーがあるのか、その辺りはどんな風にお考えなのか教えてください。

宇野 どういう研究室かというのは難しいですが、まず必要な要素として熱意というのがあると思います。それから広がり、多様性が必要だと思います。色々な人が色々な人と出会えること。その出会う人が熱意を持っていること。参加しているその場所にいる人達が、他の人達と関わりたい、社会の役に立ちたいという心意気を持っていること。専門性を持っていること。そういう要因、環境と言っていいのか分からないですが、こういうことが重要になると思います。

コジマ 研究室がそうであればすごく良いとは思うんですが、実際にはどうなのかなあと。

宇野 研究室に期待することでもないんじゃないかという気はするんですけど……

コジマ そうかもしれないですが……

宇野 熱意は持っていて欲しいですよね。多少は人とも関わりたいと思って欲しいかな。でも、そういう環境が研究室にないのであれば、アウトソースして他の勉強会のようなところに求めても良い訳です。

コジマ だからそういう意味で言うと、今仰ったような熱意や専門性を自分が持っていないと、そういう場所にも貢献できないし、熱意があれば外にも探しに行ける、そういうイメージでしょうか?

宇野 そういう場所に熱意やそういう気持ちを、逆に貰いに行くのかもしれないですよね。人間って元々の熱意はなくても、一度火がつけば熱意が出て来るような、何かよく分からない燃料のようなものは多分みんな持っていて、でも今は火がついてないんですよね。

コジマ それには運、不運があるかもしれないですね。ありがとうございます。

宇野 恋愛みたいに、出会う人に出会ったら盛り上がってしまうみたいな、そう言うところはあるんじゃないかとは思います。

質問者I 社会のための研究者を育てるというのは、多分、20年後、30年後の日本をちゃんとしていく為の一番大事なところだと私は思うんですね。自分の頃、40,50年前の学生時代はまだおおらかで、毎晩飲んで、先生方とワイワイ話をして、学会に行っても他所の大学の先生方とワイワイ話ながら、非常にオープンにやっていました。ところが今は、私は自然科学ですが、教授たちそのものが雑用に追われていて、学生と話す暇もない。学生と飲む暇もないし、下手をすると学生の論文さえろくに読んでいない、そういう状況になっているんですよね。やっぱりこれを何とかする必要があると色んな所で言っていかないと。今の若い方々って、我々団塊の世代以上に、社会のために自分の人生を過ごしたいと思っている。そういう指向って物凄いと思うんですよ。その為の環境づくりをそれなりにまとめていって、しかも重要だと強調していかないといつまで経っても変わらない。それどころか文系の学部の予算が減ると、こういう、世の中がそもそも何かということを考える、そういう学部がなくなるということですよね。それでは社会のための研究者は育てられないと私は思います。

宇野 大学とかで教員が非常に忙しくなっていることについては、僕も由々しき問題だなとは思っています。ただ、日本の良くないところとして、今の状況を変えようと考えた時、必ず新しいものを作るんですよね。それって非常に良くなくて、こういう時に一番大切なことは、ものをやめることだと思うんです。大学というのは面白いところで、ものをやめようと思うと、何だかよく分からない抵抗勢力が現れて、誰も得をしないはずなのにやめさせてくれない。よくよく考えてみると、それがなくなると仕事が減らされて、仕事が減るとポストも減る、という構造があって、実際にはそんなことはないかも知れないのに、それが怖いから取り敢えず自分の仕事は増やしておく、そういう力学があるような気がします。まずはここですね、文科省の制度がうんぬんとか言う前に、大学や研究機関に働くこういうよく分からない力学をやめるようにしないと、社会貢献になるような良い研究はなかなかできて行かないんじゃないかと思います。

最初に湯浅さんが仰った話ですが、ノーベル賞をお取りになった大隈先生が、世の中の役に立つような研究なんて目指しちゃいかんというような……というのは言いすぎですね、世の中の役に立つようにと要求されると、基礎研究は疎かになっていくと思うんです、というようなお話をされていたと思うんですが、僕はもう1つ裏面があると思っています。役に立つ研究をしないとどうなるかというと、論文になるような研究をするようになります。論文を書けば評価されるので。論文になりやすい研究、学術的には何の進歩もないのに、これを書いておけば論文になるというような研究があるんです。皆きっとそこに行くんです、簡単ですから。それは全然基礎研究のためにもならないので、社会に役に立つような研究をしろと言うのをやめさせるなら、論文になるような研究もやめろと言わなければいけない筈で、それは結局、中身のある研究をしなさいよと言うことに繋がると思います。中身って何ですかと言われると評価しづらいですが、究極的に言えばやっぱり、論文の数や研究成果じゃなくて、人を評価しなさいよという、会社組織なんかでは当たり前のようにやっているだろうところに、大学もだんだんシフトしていかないと立ち行かなくなっていくのかなという気がします。そこがスムーズに行われるようになって行けば、役に立つ研究というのをもっとリラックスして、気持ちよく自然にやっていけるような研究環境、研究社会が出来ていくんじゃないかと思います。

嶋田 ありがとうございます。こういうところで話をすると、職場や研究室に帰った時にそれなりのバイアスのようなものを勝手に感じたりしますよね。そういうのにはまり込まないで、自分たちで少しずつ変えて行けるという力を皆が持つことが重要だと僕は思っています。今日も宇野さんからいっぱいパワーを頂いて、また来週から仕事が楽しみになりました。

引き続きご質問がある方は懇親会でお受けできますので、まずは宇野先生、どうもありがとうございました。

宇野 嶋田さん、どうもありがとうございました。(了)

 

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