「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(6)

Science Talks LIVE、第2回のトークゲストは国立情報学研究所の宇野毅明氏。すぐに産業化の見込めない分野の研究者は社会の役には立てないのか? 科学と企業、社会が互いに手を携えて、新しいもの、価値のあるものを作って行くことができたら、それこそが「社会の役に立った」ことになるのでは? 研究者が社会で生きていく為に必要な考え方や資質を、ご自身のエピソードを交えてお話いただきました。

フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その2

嶋田 同じことばかりやっていると息詰まる、嫌になってくるというお話がありましたが、それは非常に共感するところがあるというか、僕もよく息詰まるんですよね。仕事ばかり24時間ずっとやっていると、嫌になってくるというか、頭がおかしくなってくるんです。家庭に帰ったら家族もいて、家族も大切だから、一生懸命家族と仲良くする訳なんですけど。息詰まっている時には、その2つの間のことが凄く大事になりますよね。つまり、宇野先生のアナロジーだと、論文を書くために最高の成果を出さなければいけないというほとんど仕事のようなミッションがあって、もしかしたらミッションではないかもしれないけど、そういう研究者としての仕事があり、家庭があった時に、婚活の仕事というのはどの辺りに位置付けられるんですか。

宇野 普段の家庭とかそういう話と、それから仕事っていう話、日本人って大体この2つで考えるんですけど、もう1つ、やっぱり社会活動というのがあるので、僕はこの社会活動に近い話かなと思ってます。

嶋田 ちょっと事前に宇野さんとお話していた時に、ジャズのセッションの話が出たと思うんですけど、例えばピアノやベースをやっている人というのは、自分の技術を高めるために、ひょっとしたら子どもの頃とか、大人になっても、コンクールに出て金メダルを取っているかもしれないし、練習も続けていると思うんです。でもセッションに出て来る時にそれを全部出しているかというとそんなことはない。自分の技術を磨き上げる上でついてきた癖であったり、考え方のパターンであったりというもので、一緒にいる人達とまた新しいものを作り出す。それは仕事の場合もあるかもしれないけど、そうじゃない場合も多いですよね。そういうものは楽しいと思うんですけど、どうですか、研究者としてこういうことをやっていくのは、研究人生の中で持続可能だと思いますか。

宇野 僕は持続可能だと思います。僕が共同研究とか「いろいろ教えてください」って言われて話を持って来られるときって、まさにこういう、研究の技術じゃないところを求められるケースの方が多い。研究技術や成果を見て、この人に聞けば何か分かるかもしれないと思って相談にいらっしゃるんですけど、あなたのやろうとしている新しいビジネスは、技術界の地図から見てみるとちょっとこっちに方向を変えた方がいいですよとか、結局はそういう話ができたのが一番よかったって言われるんです。相手のことを理解して自分の持っているものを教えてあげられる、相手が考えているのはこういうことだと知って、そこに影響を与えていける。研究というもので培った力を使って、こんな風に色々な人と関われるっていうのは研究者として凄く幸せなことだと思います。

嶋田 これは産学連携や、技術移転という現場で行われていることと結構距離がある話ですね。

宇野 産学連携だと、作ったものを役に立てなければならないという縛りがあるんですよね。役に立つ研究成果が出なければいけないのであって、研究者が役に立つのとは大分違うんです。僕の話は研究者が役に立つ話であって、成果の話ではないんです。今回の婚活の話も、たまたま僕の成果の話をしたんですけど、僕の成果を使わなくても同じことができるんです。僕の成果は全く関係ないんです。成果じゃなくて研究者が役に立ったという話だと思ってます。

嶋田 これはScience Talksの趣旨にも合いますよね。人が凄く大事だという。要するに、役に立つ研究をする人になりなさいということではなくて、研究をする、役に立つ人になってくださいということだと思うんです。これは今研究に限定して言っていますけれども、ここに集まっている方々には、ライブで見ている方もそうかもしれないですが、研究をしている人と、研究を生業としていない人がいらっしゃると思います。研究を生業としていない人についても、アナロジーで同じことが言えます。

宇野 皆さんもご自分の仕事を色々持っていらっしゃると思うんですが、そこで培ってきた何かが世の中や地域、身の回りの人、そういうところで役に立つって素晴らしいことだと思います。ちょっと話が逸れるんですけど、僕も子どもの小学校のPTAで、おやじの会というのに参加しております。PTAってお母さんたちが苦行を強いられるところということで最近は非常に攻撃されているんですが、お父さんが集まると全然変わってくるんです。おやじの会ってPTAの中では特に業務が決まっていないことが多くて、何か自分たちに出来ることで子どもたちの学校生活を良くしていきたいという話なんですけど、そうすると、本当に色んな職業のお父さんたちがいるので、皆自分の専門性から色んなことを言って、色んな技術を出してくるんです。何が起こっても作戦が凄く豊かなんです。これはやっぱり、研究者っていうものに限らず、何か専門性を持った仕事をしている人たちというのはこんなにも豊かに周りに貢献できるんだということを実感できる、僕はそういう、良い場所だなと思っています。

嶋田 仕事でも家庭でもない、第3の社会的な活動っていうことですか。

宇野 多分、お父さんにしてもお母さんにしても、自分の専門性や普段からやっていることは自然に子どもや、夫婦の間で反映されていると思います。

嶋田 第3の、と峻別して言う必要もないかも知れないんですが、何故そういう言い方をしているかというと、外国の方から昔、「日本人にはソーシャルタイムがないんですか」と言われたことがあって。仕事ばっかりして、家に帰って寝て、また仕事ばっかりして、家に帰って寝て、それ以外何もしないんですかって言われたことがあるんです。僕もそうだったんですけど、それ以降はScience Talksに来たりするようになったんです。そういう社会活動をしている人っていらっしゃいますか? というよりもここにきている時点で……

宇野 社会活動していますよね。

嶋田 していますね。失礼しました。僕はそれ、凄く大事だと思うんですよね。息詰まった時に広がる。考え方と人が広く繋がっていって、また違うものの見方ができて、役に立つ人間になれる。可能性が広がるという。

宇野 情けは人のためならずという言葉がありますけど、結局そういう活動って、自分に返ってくると思ってるんですよね。婚活の話なんていうのは、社会活動と言いつつも研究のところに凄く近いんですが、そういう研究に近いところで僕は色々社会活動をやっていて。おやじの会はまたちょっと別なんですが、そういう活動をしていると、自分に返ってくるものの方が逆に多かったりするんです。何か相談を持ち掛けられた時、実はこの分野ではこういう風に考えていまして、という答え方もできますし、こっちの分野ではこうやっていますよとアドバイスもできます。今何が起こっているのか、何が分かったのかというのは文献やニュースを見れば分かります。でも、皆が何を考えているのか、何を思っているのかということは全く分からないんです。人から話を聴くとそこが分かる。何を考えて、何を思っているかが分かると、どんな成果が出ているかというのはある種、自動的に導かれる話です。そういう意味でも、人に会って人に関わるということは、研究者の素養を鍛え上げる意味でもの凄く為になっていますし、それは別に研究者に限ったことでもないんでしょう。

嶋田 ありがとうございました。僕が興味のあるところをぐぐっと訊いてしまいましたが、また会場からご質問いかがですか。折角来たので。――どうぞ。

質問者B 質問というよりコメントという感じなんですが、生物医学系の研究者で、アメリカにいたことがあります。向こうのカルチャーってやっぱり、ブレーンストーミングを凄く大切にしていて、色々な別の分野の研究者と話すというのが重要なんですね。学生やポスドク、研究者も、同じ分野に入っているだけではなくて外の分野に飛び出ろと強く勧められます。そういう文化が理解されていて、GoogleやFacebookのような企業もそれを分かっている。それに比べて日本だと、婚活の話じゃないですけど、タコツボにはまっているような研究者がたくさんいて、それって日本の科学技術にとって凄くデメリットだなと常々そう思っていました、というのがコメントです。それとその婚活の話で、うまく行かない人の中にはワンパターンに陥っている人がたくさんいて、という解析だったんですけれども、それって本当なのかなという疑問がちょっとあります。ワンパターンな動きをしている人というのは一般的にある程度の割合でいて、たまたまそういう人達がそこでも見つかったという可能性はありますよね。

宇野 それは否定できないです。そもそもそんなに精度の高い話でもないので、タコツボに入っていそうな人が例えば200人くらいいたとして、そのうちの100人は入っていそうに見えているだけで実際はそうではない可能性もあります。どこから先がタコツボでどこまでがそうでないのかもよく分からないですし。そういうちょっとぼやっとしたものではあると思います。

でも、自然にワンパターンになってしまう場合というのもあって。愛媛県はやっぱり田舎なので、山奥ではないですが、他の町から離れている町や市もある訳ですね。そういうところの人は、特にそういうつもりはなくても、自分の地域のイベントにばかり参加することになりがちです。だってこれしかないじゃない? と思っているような人たちに、いや、そういうのは良くないから、たまには違うところに、休日を使って足を伸ばすと良いよというような提案をすることは出来る。実際にはタコツボではなくても、タコツボに陥った人向けの提案でちょっと何かが変わる、そういう効果もあるかなとは思っています。

質問者B ありがとうございます。

嶋田 他にいかがですか?

質問者C 今日は大変興味深いお話をありがとうございます。先ほどちょっと出た話で、やっぱり仕事と家庭と、あと第3のソーシャルというお話だったんですが、そういったソーシャルの活動というのは日々の生活の中にどのくらいの比重で入れていくのが一番いいバランスだとお考えでしょうか。

宇野 人によって全く違うと思いますが、僕の場合はソーシャルな活動は1週間に5,6時間……そんなにないですね、2時間くらいです。婚活のような話もソーシャルに入れるのであれば6,7時間に増えますし、もっと研究サイドに近いところまで入れてしまえば10~15時間になります。ここから先がソーシャルというような境界がない以上、灰色のところが多くて、この辺りは他よりも色が濃いかな、というような感じになっている気がします。

質問者C ありがとうございます。

嶋田 5,6時間というところでちょっと今面白いなと思ったのは、JST(科学技術振興機構)の兼業規程がちょうど週5時間までですね。

宇野 ちょうどいいですね。

嶋田 ぴったりですね。すみません、どうでもいい話でした。他にいかがでしょうか。

質問者D 面白いお話をありがとうございました。前回の、独立系研究者の小松さんのお話も聞かせていただいたんですが、何かちょっと共通している点があるように思いました。彼の場合は、企業さんから研究開発の部分でアウトソースを受けてビジネスをしていると。ただ必ずしもご自身の専門に合わないような依頼もありますよね、みたいなことをお話ししたときに、色々話を聴いてみると、相手の問題を自分のフィールド、枠組みの中で捉え直して逆提案するみたいなことをやっているという話があって。まさに今日のお話も、それに近い話なのかなと。

宇野 課題設定のところですね。

質問者D そうですね。そういうところに1つ共通点があったというのはありました。これっはコメントで、質問の方は、今NIIの教授という、今後後進を育てなければいけないお立場だと思うんですが、今持たれている学生さんには、自分の能力を見渡せるようなことというのは仕掛けていらっしゃるんでしょうか。

宇野 私のところには学生はいないので、そういう教育活動を積極的にやるということはできないですが、ポスドクの研究員は何人かいるので、その人たちは色々なところに行って話をするようにとは言っています。こういう場所にも来るように声を掛けていて、実は今日も来ているんですが、実際どんなことが行われているのかを見て貰おうと思っています。

何でもいいからセミナーに出てきなさいと言ってしまうと、多分得るものはそんなにないんじゃないかなと思うんですが、自分が関わっている研究をどうプレゼンするか、自分の関わっている研究をしてきた人が、どういう考えを持つに至って、どういう話し方をしているかを知るというのは凄く良いロールモデルというか、ケーススタディになるんじゃないかなと思います。後はやっぱりブレーンストーミングですね。積極的にそういうところに参加して、自分の専門性を活かして話をするというのが重要だと思います。

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