「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(5)

Science Talks LIVE、第2回のトークゲストは国立情報学研究所の宇野毅明氏。すぐに産業化の見込めない分野の研究者は社会の役には立てないのか? 科学と企業、社会が互いに手を携えて、新しいもの、価値のあるものを作って行くことができたら、それこそが「社会の役に立った」ことになるのでは? 研究者が社会で生きていく為に必要な考え方や資質を、ご自身のエピソードを交えてお話いただきました。

フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その1

嶋田 宇野先生、ありがとうございます。まず私の自己紹介をさせていただきます。科学技術振興機構で働いています、嶋田と申します。よろしくお願いします。今の話で、最初に質問されたい方はいますか? どうぞ。

質問者A 「こんな研究はつまらない」とか仰ったりしましたけれども、何故宇野さんは研究者になりたいと思ったのかという理由が僕にはちょっとよく分からないです。いわゆる研究者の資質のことも含めて、何でそういう研究者になりたいと思ったのか、というところです。

宇野 多分、昔は研究者になりたいとは思っていないかったんですね。小学校の頃は大工さんになりたいと思っていましたし、高校の頃はゲームプログラマーになりたいと思ってました。研究者になろうと初めて思ったのは修士の時で、いよいよドクターに行くか、会社に入るかという時です。その時に周りの、先輩方や同期を見ていると、研究している人達が楽しそうなんです。会社に入った人は大変そうで、一応就職活動をして会社の業務も見るんですけど、やっぱり研究の方が楽しそうだっていうのと、修士の時に論文がぽんぽんと2本くらい書けたんです。これで、こっちの方に行った方が僕は勝てるに違いないと思ったんです。こういう次第で、打算的なところもちょっとあったんですが、要は楽しそうだからやってきましたというところで深い理由はありませんでした。元々モノを作ったり、クリエイティブな活動が好きだったので、会社の業務的な話より研究の方が面白そうだと感じたところもあると思います。

研究者としての資質を鍛えなければと感じ出したのは10年前くらいからですね。研究者として活動を始めて5年くらいの時だと思います。ドクターを出た研究者が壁にぶち当たる現象があるんですけど、ドクターの時はちゃんとテーマがあるし尻も叩かれるので、研究も進んでいい結果も出るんです。それが職を得てポスドクになったり助教になったりすると、途端に成果が出なくなる。これはやっぱり煮詰まっているということで、僕にもそういう時代がありました。その時は全然論文ができなくて。自分のやっていることが、たとえ論文に繋がるようなことだったとしても、つまらないなと思って進まないんです。それでホームページを書いたり、本を書いたり、学生の面倒を見たり、そんなことばかりしてたんですが、それと同時に、周りの人に自分の研究結果を提供して、使ってもらうというのをやりました。それが意外とうまく行って、そこから芽が出ました。それを突き詰めていった結果、研究者として大事な資質が分かってきた、そのような感じです。書いていた本がバカ売れしていたら、きっと今頃作家になっていたと思います。

嶋田 他にいらっしゃいますか、……よろしいですか。

僕が宇野さんに会ったのはかなり前なんですが、科学技術振興機構というのはとても素敵な職場でして、こういう人とよく一緒に仕事ができるんですよね。まだお顔を知らなかった頃に北大のとある先生から、「嶋田さん、NIIにですね、凄い人がいるんですよ」と。ちょっと名前は忘れてしまったんですが、データマイニングの国際選手権大会みたいなのがあるらしいです(編集註:IEEE International Conference of Data Mining, Frequent Itemset Mining Implementations 04, FIMI04)。そこでトップの成績(註:Best Implementation Award)を収めたというプリンスみたいな人がいて、それが宇野さんだったんです。会ってみるまでこんな気さくな先生だとは思わなかったんですけど。今日の婚活の話を聴きながら皆さんも多分知りたいんじゃないかと思うんですが、宇野さんのその世界トップレベルの研究というのはどういう研究なんですか?

宇野 アルゴリズム理論というのをやっていまして、どういう風にプログラムをデザインすると計算が速くなりますか、という研究をしています。プログラムを上手に書くというのは普通、色々なテクニックを使って、こういう風に書くと2倍、3倍速くなるよとか、この言語、このライブラリを使うと10倍速くなるとかそういうようなことを言うんですけど、アルゴリズムの人達がやっているのはもう少し抽象度の高い仕事です。プログラムって、与えたデータが大きくなると当然時間が掛かるんですね。その時間の掛かり方というのが結構プログラムによって違っていて、普通の感覚からするとデータが10倍になったとしたら計算時間も10倍になるような気がしますよね。でも実際は、データは10倍なのに計算時間が100倍になるものもあるし、1000倍になるものもある。100倍になった時点で動かなくなってしまうものもある。こういう指数関数的な増え方をするものは大抵使い物にならないので、なるべく一次関数的な増え方に抑えるにはどうすればいいのか。デザインを変えるんです。そういう研究をしています。

先ほど嶋田さんが仰ったデータマイニングの大会というのは、パターン発見といって、データの中に現れる面白いものを全部見つけてくださいという問題があって、それに対して速いプログラムを作ろうというコンテストだったんです。データマイニングというのはデータベースの人が始めた分野なので、やっているのもほとんどがデータベースの人達なんです。大きなデータをどうやって扱いましょうかとか、どうやって圧縮しましょうかということには興味があっても、どうやって計算を速くするんですかというところには興味がないし技術もない。そういう状況なのは元々しっていたんですが、そこにそういうコンテストがあると聞きつけて。これはきっと、データの扱い方のテクニックしか持っていない人達が集まる競争だから、計算を速くする方法を知っていれば余裕で勝てるに違いないと思って、それで戦いに臨んだんです。

それで一発で優勝出来たら結構格好いいんですけど、残念ながら1回負けちゃいました。彼らは彼らなりに、ちゃんと良いものを持っているんですね。僕はそこが見えていなかった。悔しいので2年目はF1マシンを調整するようにフルにチューニングしたプログラムを作って、ちゃんと無事優勝できました。他の参加者って大体、修士や博士の学生なので、勉強の合間にちょっと作りましたというような感じで、それほど本気でもないしプロフェッショナルでもない。そういう人達のところに、子どもがサッカーをやっているところに大人が入ってきて球を蹴るような感じで挽回を挑んだので、一応、世界的なコンペで優勝したとは言っているんですけど、ちょっとずるい感じはあります。

嶋田 そのF1にチューニングされたデータマイニングの技術っていうのは、この愛媛県の婚活サイトには実装されてるんですか?

宇野 全く実装されていません。

嶋田 されていないですよね。

宇野 されていないですよ、そんな、いらないじゃないですか。

嶋田 僕は今日、役に立つ研究っていう話をする時に、そこが結構ポイントだなと思っていて。宇野さんは研究者として、そういうところでF1マシンを造るんだけれども、それを愛媛県に持って行ったりはしないんですよね。

宇野 はい。

嶋田 それを使うことで論文が書けたりとか、世界で名前が売れたりっていうようなことはもちろんあるんだと思うんですけど、それではないもので愛媛県に入って行ってやろうっていう、そのモチベーションはどういうところにあるんですか?

宇野 1つは、他の人の役に立つようなことをするっていうのは、人間にとっては根源的な幸せですよね。研究者っていうのも、いい結果を出したいという気持ちはあるんですけど、根源的にはその成果を他人に褒めて貰いたいっていうのがあると思うんです。褒めて貰いたい、良いものを世に出して皆に認めて貰いたいっていう、そういう承認欲求は根底にあると思います。

それから、話を持ってきた方ですね。その方がどれくらい熱意があるか。業務だから仕方なくやってるんですよ、みたいな感じで来られたら、僕絶対引き受けないと思います。何とかしなきゃいけないっていうその熱意があったので、これは関わっていくと面白そうだなと思った。後は、婚活っていうこと自体です。やっぱりドロドロしているものって、見ていて楽しいですよね。

嶋田 と、いうことは、宇野さんは最初に、右と左に人がいる時に課題を抽象化していって、真ん中で共存するんだみたいな話がありましたけど、あれは何というか結果論であって、そこに行くまでにはそういう色んな運とか出会いがあるということですかね。

宇野 そう思います。出会いというのは、出会うための準備をしている人のところにしか訪れないと思います。

嶋田 なるほど。

宇野 花が咲く時に、春風が吹いてきて温かくなったら花は咲くんですけど、つぼみを作って春風が来るのをちゃんと待っているような花だけが花を咲かせることができて、そうじゃないものは花も咲きませんよ、と。普段から色々な人に会う、何が待っているのか、どういうおいしいことがあるのかは分からなくても、取り敢えず会って、その人の熱意を感じてみようみたいな心構えを持っている人だったら、こういう出会いは自然に発生するのかなとは思います。

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