「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(1)

Science Talks LIVE、第2回のトークゲストは国立情報学研究所の宇野毅明氏。すぐに産業化の見込めない分野の研究者は社会の役には立てないのか? 科学と企業、社会が互いに手を携えて、新しいもの、価値のあるものを作って行くことができたら、それこそが「社会の役に立った」ことになるのでは? 研究者が社会で生きていく為に必要な考え方や資質を、ご自身のエピソードを交えてお話いただきました。

湯浅 時間となりましたので開始させていただきます。皆さん、こんばんは。本日は、だいぶ涼しくなってはきましたがまだまだ残暑が残る中、Science Talks LIVEへお越しいただきありがとうございます。私、このScience Talksの副委員長を務めております、カクタス・コミュニケーションズの湯浅と申します。本日は皆さんよろしくお願いいたします。

Science Talks LIVEは、日本の科学研究を活性化するために、個人や組織、機関の自発的な取り組みを促そうということで、実際に個人として、人としてですね、面白いことをやっている方、こういう人にお話を聴いてみたいなという方をお招きしてお話を伺うというイベントで、今回が第2回です。来月(註:2016年11月)はサイエンスアゴラが同時期にあって、私たちもこれとは別の形ですがお手伝いするので、日程がちょっと厳しいということでお休みにさせていただきましたが、基本的には毎月1回、こういう感じで皆さんにお越しいただいて、凄く面白い取り組みをされている研究者の方のお話を気軽な感じで聴ける、そういうイベントを作りたいなという風に考えております。

今日のテーマは「社会の役に立つ研究者」って何だろう、ということなんですが、先日ノーベル賞を受賞された大隅(良範)先生が、「社会の役に立つ」という言葉が日本の研究をダメにしているというお話をされていました。今回はそれとはちょっと違っていて、社会の役に立つ研究そのものというよりは、社会の役に立つ研究者って一体どういうことなんだろう、というテーマでNII、国立情報学研究所の宇野毅明先生にお話をしていただこうと思っています。お話の後は今隣に座っていただいているJSTの嶋田さんとのクロストークも予定しています。嶋田さんと宇野先生は『未来研究トーク』という、企業と研究者が科学研究の未来について語るという場があるんですが、そちらで中心となって活動されているお二人でもあるということで、かなり気心が知れた仲なので、嶋田さんにはかなり突っ込んだ質問もしていただければと思っております。宇野先生は非常に気さくで、かなり面白いお話をされる方なので、会場の皆さんも是非、こんな話を聴いてみたいということがあったら気軽に質問してください。

それでは早速、まずは宇野先生からお話をいただきます。先生、お願いします。

論文がたくさん書ける研究者=社会に役立つ研究者?

宇野 こんにちは。国立情報学研究所の宇野と申します。今日はお越しいただきましてありがとうございました。世の中に役に立つ研究とは何か、というお話をしてくださいということでご依頼を受けたんですが、役に立つ研究というより役に立つ研究者の方が面白いだろうということで、ちょっとひねってこんなタイトルにさせていただきました。

自己紹介ですが、何々の研究をしていますと言っても全然面白くないので、こういう人ですということをお話しさせていただきます。理系の研究者なんですが、実験系理論系で言えば理論系です。勉強は昔から嫌いで、勉強したいからではなく研究がしたくて研究者になりました。何か見つけるのは好きなんですが、その為にコツコツ資料を探すのは大嫌いなので、いかにしてそれを避けるかを考えています。結局人に訊くというのが、コツコツ論文を読むよりも10倍効率がいいということに気がつきまして、最近は人に訊くばかりの活動をしています。意外と情報というのは流通していないので、1つの分野で聞いた話を別の分野の人に話すと結構喜ばれるんです。それ自体が研究のネタになることもありますし、情報を流通させることによって自分だけでなく周りの研究も盛んになります。ビジネスモデルについてですが、応用に繋がるものでないとやはりなかなか反応がない、採択もされないんですね。応用に繋がる研究で論文を書くというのは非常に難しいので、基礎的で注目されづらい研究もたくさんしておいて、そこで論文数を稼いで、その実績にモノを言わせて応用系のファンドを取る、そういうスタイルでやっています。つまり、真っ直ぐ王道を攻めるわけではなくて、少しずるそうな手も使いつつ、うまく組み立てて研究をしているという感じです。

「世の中に役立つ研究」、こんなものを狙っているからなかなかノーベル賞を狙えるような研究ができないんだという話もありますが、これはこれで大事ではあって、やっていく必要はあると思います。一口に「役に立つ」と言っても大きく2つに分かれていて、まず1つは研究成果がダイレクトに世の中の役に立つもの。例えば何かの素材を作りました、薬を作りましたというのがそうですね。社会調査や心理学も、こういうことが分かりましたと言うと、ふうんそうかと、皆の知的好奇心や知的欲求にダイレクトに応えたことになる。もう1つは、自分で直接研究するわけではないけれど、自分の研究成果や分野の知識をもとに、企業さんや行政さんと提携して何か新しいものを作って、それで成果を出していくというやり方です。例えば車のエンジンの設計がそうだと思うんですが、最新の研究成果を使ってエンジンを作っても、多分技術的に込み入り過ぎていて世の中には出て行き辛い。最新の手前の手前の手前にあるような、この分野の人なら大抵知っているようなことなんだけど、このまま使っても面白くないし役にも立たないからちょっと工夫をしてこっちでこんな風に使いましょ、というような考え方から世の中で使い物になるエンジン、使い物になるITサービスのようなものが出て来ている。こういう役立たせ方もあると思います。

ダイレクトに役立つかどうかは研究分野に依存していて、例えば数学の人って、自分の成果をそのまま役に立てようと思ったって無理なんですよね。美しい数式を発見したからと言って、それで世の中の人の心を動かせるかというと全然そんなことはないわけです。そういう分野の人は初めから、成果や知識の使い方の工夫で頑張るしかない。

ダイレクトに役立つ可能性のある分野でも、例えば先ほど素材の話をしましたが、開発すればすぐ素材として世の中に出せますというものはやっぱり少ないと思うんです。基礎研究の段階で、こういう素材を作るにはどうすればいいかとか、上手に材料を混ぜるテクニックだとか、観察のための実験器具だとか色々課題が出て来て、そういう課題を解決してもそれがそのまま世の中の役に立つケースはあまりない。

という次第で、例えば僕が科研費の申請書なんかを書く時は「こういう基礎研究をしていると、将来いつかはこんな方向に役立ちますよ」みたいな感じで頑張って書くんですが、本当はなかなか難しいわけですね。特に研究をしたりファンドを取ろうと思うと、一番最初にやらなければいけないのは課題の発見で、研究も、ビジネスでもそうですけど、良い課題を見つけたらそれで50%くらい成功が約束されている。逆に言えば課題発見のところで失敗してしまうと、研究もビジネスもうまく行きませんよということで、今までのものを積み上げていって少しずつ改良するよりは、新しいタイプ、新しいコンセプトが入ったようなトピックを見つけ出す方が重要だし、研究やビジネスとして価値がありますよとよく言われます。

論文を書いて生きていくだけなら、論文って新しさがあって正しければいいので、自分のやってきたことを少しずつ改良していけばいくらでも書けます。そういう意味では研究者って、ただご飯を食べたいと思うだけだったら論文を書き続けて生きていけるんです。特に理論系は。生きてはいけるんですが、それを続けているとだんだん嫌になってきます。つまらないし、ストレスはかかるし、そもそも良いことをしようと思って研究者になったのに、そんなことばかりしていると自分が嫌になってくるんです。それではつらいので、元々の自分の世界というのがあるわけですが、それを広げようと色々考えることになります。

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