『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』

大阪大学ショセキカプロジェクトインタビュー!

『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』

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『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』大阪大学ショセキカプロジェクトインタビュー!
名門大阪大学より出版された『ドーナツを穴だけ残して食べる方法 越境する学問―穴からのぞく大学講義』。タイトルどおり、ドーナツの穴を残しながら本体を食べるにはどうすればいいか?という単純にして難解な問いに対し、阪大が誇る各専門分野の教員が、独自のアプローチで解決に挑んでいる。

ネットで一時話題になったこのテーマをとことん追求する、新しい形態の学問書として2月に発売されたこの書籍だが、面白いのはその内容に留まらない。なんと本の企画、制作、広報、販売に至るまでの全工程が学生によって進められてきたのだ。

今回サイエンストークスはプロジェクトの企画、運営を担った全学教育推進機構の中村准教授、学部生の大成さん、平野さん、山口さん、そして大阪大学出版会の川上さんと土橋さんにその詳細を伺った。
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今回この本が誕生した経緯とは?
中村准教授が、有志で活動的な学生を募ったところからプロジェクトは起動した。そのときは大学の面白い授業を紹介することで、阪大の教育を世に発信すると同時に、学生を巻き込んで教育自体を改善していこう、という狙いがあったそう。

有志で始めた活動は、参加者が徐々に減っていったことで継続困難となり、登録制の授業に変更された。阪大の出版会がちょうど創立20周年の節目をむかえていたため、企画は20周年記念事業、「ショセキカ」プロジェクトとして採用された。

しかし出版に間に合わせるため、企画案を提出するために一ヵ月半程度の時間しかない。参加学生はグループに分かれ、コンペ形式で案を検討し、ここから本格的な内容作りに入る。

出版の基本を知らない学生たちに、業界事情や広報戦略を教えつつ、デザインや企画、それぞれ興味のある作業を担当させながら、書籍作りは急ピッチで進められていった。

学生主導の書籍制作

「学生さんたちが、今まで読者の立場で感じていた、もっとこんな風に本が出たら面白いとか、こんな風に知りたいとかいうのを、どんどん意見を出してくれるようになったので、彼らのやりたいことを実現するためにいろいろお手伝いしました。」と出版会の川上さんが語るように、中心にいたのは能動的に活動する学生たちだった。

担当は主に企画、デザイン、広報に分けられ、それぞれの学生が連携して本を作り上げていった。当初は執筆依頼をアポなし、まさに直球勝負で教員に呼びかけたという平野さん。敬語の使い方やメールの書き方まで全てが苦労の連続だったという。

さらに苦労したのは、専門的な内容を誰が読んでも理解しやすいように、文系理系関係なく全員で読み合わせをし、教員には何回も書き直しをお願いしたこと。「本が出てきたときに、一般の方に分かりやすくなるように苦労して、やっぱり良かったなと思いました。」

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実際本が市場に出たときの反応は?
事前予約数が初版3000部を上回り、早くも重版が決定。大阪を中心に売れ始め、既に13000部刷られた「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」(以下「ドーナツ」)は阪大出版会史上今までにないペースの売り上げを記録している。

書店では有名な作家の隣で平積みに置かれ、すでにメディアの注目を集めている。学生の大成さんいわく、「発売前までは売れるかどうか不安でしたが、ツイッターの好評なレビューやラジオ番組などで紹介されているのを聞いて、ああ本当に面白いんだな、と実感しました。

大学教員という堅そうな人たちが、よく分からないポーズの写真とともに、ドーナツを本当に穴だけ残して食べようと頑張っているのが、少年のようだ、教授萌えするなど、とてもいい反応をいただきました。」

単純に面白い、という以外にこんな反応もあった。

中村准教授は、発売前から興味を示してくれていた梅田の大型書店から、最近学術書が殆ど売れてない状況で、色々な学問の入り口となるような、導入書のようなものがほしい、と相談を受けていた。

「ドーナツ」がまさにそれになるかもしれない、と言う。学問の多様なアプローチを知ってもらうことをコンセプトとしたとはいえ、作った本人たちもそんな捉え方をしてくれるとは思わなかったそう。プロジェクト発足段階では既存の授業を紹介する予定だったのが、学問の多様性と面白さ自体を探求する内容へ変わったことにより、思わぬ効果を生み出している。

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学生の可能性、教育の可能性を広げる!

解答のない質問に対して、独自の専門性と哲学から結論をえぐり出す。このコンセプトを思いついたのは、授業に参加した学生たちである。教員や出版会のみの力では実現しなかった、と中村准教授が語るように、執筆の依頼や学生目線での文章作りは彼らが積極的に“面白いものを作ろう!”と取り組んだことによって実現した。

しかし、大阪大学の出版会が発行する以上、学生の自己満足ではダメで、書籍は大阪大学の教育に寄与しなければならない。

社会人と一緒に仕事をして、普通に学生生活をやっていたら出来ないような経験がたくさんできた、という山口さん。「大人の人と一緒にプロジェクトをやるっていうのが、すごい良い経験になるなと感じました。先生や出版会のコネクションを使って、関係者しか参加できないイベントに参加させていただきましたし、メディアの取材もきてくれました。校正の作業などでも日々指摘を受けて成長できました。こういうところが学生だけの団体じゃない強みなのかなと感じましたね。」

将来的には社会に出てもこうした活動をしてみたい、と意気込む学生さんたち。中村准教授は新たな教育の可能性をここに見出したという。教員、学生、出版会が縦と横のつながりを意識しない状態で一つのプロジェクトに取り組むことによって、自然とアンテナが高い学生や興味を持った教員、書店やメディアなどが関わり始め、大学全体にとってプラスになる結果を生むことができる。

それは大阪大学が実践している「パンキョー革命」(大阪大学における全学共通教育のより良い在り方について、学生と教職員が対話しながらともに考えて行く企画)にも精通することだという。

学問への扉

現在の教育システムでは高校生の時から、文系、理系と分けられ、大学にいるうちも、自分と異なった専門科目に触れる機会が少ない。そうした中で例えば文系学生は、理系科目の面白さがわからない、そもそも触れるのも嫌だ、というアレルギー症状を身につけてしまうことも。

更に就職活動をする学生にとっては実用的な知識の習得に傾倒しがちである。「ドーナツ」を作っている際、何よりも学問の知的な面白さに注目してほしいと中村准教授は言う。学生たちが原稿を作成しているとき、当初は数学や化学の記事は理系の学生には面白くても、文系の学生には魅力が分かっていなかった。

しかし自分と異なった興味を持つ人と接すること、彼らに説明してもらうことで、自分の専門以外の学問の可能性に目を向ける機会ができたとか。研究の中でも、常に成果を求められる環境下にいると、学問自体の楽しさを見失うこともあるもある。

純粋に“ドーナツを穴だけ残して食べる方法”を論じる本を通して知的好奇心を再発見してほしい、という願いが込められている。

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「ドーナツを穴だけ残して食べる方法 越境する学問―穴からのぞく大学講義」、ショセキカプロジェクトについてもっと詳しく知りたい方は:
http://www.celas.osaka-u.ac.jp/ourwork/shosekika

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