「研究費は、取れない人が圧倒的多数の時代」

内閣官房健康・医療戦略室 次長・菱山豊氏インタビュー(3)

「研究費は、取れない人が圧倒的多数の時代」
菱山豊氏インタビューシリーズ3回目!
科研費の獲得が一層難しくなる中、審査や研究評価システムのあり方に疑問が投げかけられてきました。菱山先生の考えを伺いました。


【湯浅】
財務省の神田氏も、日本の科学技術予算はすでに限界点に達しているため、今は適切な研究評価システムを構築して、配分することが重要だとおっしゃっています。

科研費申請の審査やその他の公的な競争的資金の研究評価システムは、透明性が低く、コネやバイアスがかかった世界であるというご意見もあります。今の研究評価システムは適切なのでしょうか。

【菱山】 科学技術予算が限界点に達しているかどうかはいろいろ議論があると思いますが、財政事情が厳しい中で知恵を絞る必要があります。昔はコネみたいなものが支配しているなんて言われていたということを聞いたことがあります。

ただ、最近の科研費をはじめとした競争的な研究資金は、審査の基準や審査員が誰であるかがわかるようになっていますし、そういう意味では不透明さは解消されているといってもいいのではないでしょうか。NIHにいらした東大の菅先生も「研究をめぐる競争的環境」(「研究する大学」(岩波書店))でも同様の指摘をされています。

【湯浅】 そうですか。

【菱山】 競争的資金の審査システムにどうしても不満が生じる原因は、採択率ですよね。科研費でさえ3倍以上の倍率で、JSTのCRESTなどでは10倍、何十倍だったりするわけです。すると結果的に研究費を獲得した人が研究者の中の圧倒的少数になり、もらえなかった人が多数になるので、全体として今の制度に納得がいかない、という不満の声が大きくなるのは自然です。

研究費を獲得した人たちは積極的に制度の良さを言いませんし、その分野の第一人者を自負されているもらえなかった人は、大きな不満を持つでしょう。

【湯浅】 確かに研究費がつかない方のほうが圧倒的に多いのが今の現実ですよね。

【菱山】 ええ。さらに科研費以外の研究費は、「今年はこの分野で行こう」という方針をたてて特定の狭い分野のみを対象にしますので、分野によっては「自分のところにはぜんぜん研究費が来ない」と感じている研究者もいるでしょう。研究者にとっては、自分の分野が重点の対象になるかどうかは死活問題です。だから論争がおきやすい。

【湯浅】 実際、重点分野はどのようにして決められるのが最適なんでしょう?

【菱山】 予算は限られてます。その中でどの分野を選ぶかを決めるやり方にはいろいろな方法があります。有識者を集めて話し合ったり、データを元に世界的に競争力が高まっている、あるいは弱いと思われる分野をあえて選ぶこともあると思います。

【湯浅】 そうすると、去年までついていた研究費が、今年からはゼロになる可能性も当然あるわけですもんね。

【菱山】 そういうケースは多数出てきます。自分の研究が一番重要だと思われることは当然です。現場の研究者の人たちから具体的に何がどう不満で、何を変えればよくなると思っているのか具体的に声を出していただくことは、大切なことでもあります。実際、制度を変えてほしいといった若手研究者の声もいろいろと届いていると思いますね。

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