科学技術とイノベーションについて

科学技術振興機構顧問・元総合科学技術会議議員の相澤益男氏インタビュー③

科学技術とイノベーションについて

2007年に総合科学技術会議議員を務められ、現在は科学技術振興機構顧問の相澤益男氏にインタビューしました。ご自身が携わった第3期、第4期科学技術基本計画や最先端研究開発支援プログラム「FIRST」と呼ばれる大規模プロジェクトを中心にお話をいただきました。


湯浅
 本当にきっかけは山中先生の発見がかなり影響したんですか?

相澤 それは影響していると思います。今まで日本でノーベル賞の受賞者した人たちは、科学技術の分野の人です。みなさんその成果は20年、30年前にさかのぼります。

ところが山中さんの場合は小さなチームで研究をスタートした。その時に立ち上げからJSTが関わってました。科学技術基本計画の中で初めて研究が立ち上がり、あっという間にノーベル賞を獲りました。

国をあげて山中さんの研究を支援していないとすると、必ずしもこういうかたちで展開できたかどうか。このわずかな期間でノーベル賞受賞までいったというのははじめてです。

湯浅 そうですよね。

相澤 日本が今本当に進めなくてはいけないのは基礎研究という分野からそういった飛躍的な知を創造していくそういう人たちを見つけ出しながら、強く支援をしていくことです。

湯浅 その目利きは非常に難しいですよね。

相澤 だけど、目利きを難しいといって避けるのではなくて、やはりいろいろな可能性を秘めている人たちを基本的には支えればいいのです。可能性を秘めてるかどうかというのがわかりにくいのですが。

それは必ずしも目利きがいなくてはいけないことかではなくて、そういう場を作ってそこでふーっと何か出てきて。その研究者が本当に世界に冠たるものを創りだそうというぐらいの意欲があるのかは意外と誰もが見てもわかります。

この人は何かやってくれるのではないかという期待は持てるんですよ。

湯浅 先ほど565人から30人が選ばれたというお話がありましたが、皆さんこの30人の方を選ばれたときにそんなに意見の相違はなかったのでしょうか。

相澤 やはりバラつきはあります。バラつくけれど、最終的には565人を何段階かで絞りますね。90人については全部ヒアリングしましたからね。ここの場に来るとこれはまた明確なので。

湯浅 そうですよね。はい。

相澤 ピカっと光っているなとかというのはね、かなり出てきますね。

湯浅 おっしゃったように第4期は可能性を持っている方を見つけ出して、その人をいろいろな意味で支援をしていく体制を作ります。第5期以降は国のそもそもの方針は基本的に同じように考えていかれますか?

相澤 これだけ長くしたからそこが第4期だと思ったかもしれませんが、これは第4期の話ではなく、「FIRST」の話。第4期の大きな特長は、これまで研究者の自分の興味、それからやりたいこと、そういうことをひたすらやるということ。

研究者はみんなそういう中での嗜好性はもちろんあるわけです。しかし、そこから生み出されていく科学技術の成果というのは社会の期待に応えているものかどうかという問題が常にありました。

湯浅 なるほど。

相澤 当時、内閣府で毎年おこなっているようなアンケート調査でも、「科学技術、こういうことに関心がありますか?」と質問するとというとかなりの人は関心はあると答えました。

それから「科学技術の中に大きな成果が出てくることに対してそれを評価しますか?」の質問に対しても、「YES」の答えが多かったですね。ところが今社会が抱えてる問題というのがあるわけですね。「その問題に科学技術はもっと貢献すべきと考えますか?」という質問をすると「もっと貢献するべきだ」という答えが圧倒的に多くあるわけですよ。これなんなのか?

科学の進歩が社会の問題を解決してくれるという時代が、だんだんと変わってきてしまったんですよ。

湯浅 そうなんですね。

相澤 特に20世紀は科学技術の進歩は我々の生活を豊かにし、便利にし、そのようなかたちで進んできました。だから科学技術が我々の日常生活、それから社会が抱えている問題の解決に貢献してきている、とみなさん思っていたと思います。科学技術の恩恵というのがあった

今は我々が抱えている問題の大規模化、それから難しさ、そういうようなところにきてしまいました。たとえば、気候変動、それから人口の増加、高齢化。

今抱えている問題というのは、もう一歩何かやってもらわないと困るということが随分と出てきている。そういうようなことから考えて、科学技術は社会に対して、特に社会の期待に対してどう答えるか?これを真剣に考えないといけないということがあります。

湯浅 なるほど。

相澤 科学技術とイノベーション。社会が抱えている課題に正面からぶつかっていってね、それで課題解決に結びつけるということが極めて重要であるという正義になってきます。

だから、この課題解決に向けての科学技術とイノベーションということを第四期の特長としたわけですよ。

湯浅 科学技術とイノベーション。

相澤 もうひとつは、科学技術という研究をすることと、イノベーションを起こしていくということがバラバラであっては今の世界の状況に勝てないということ。科学・イノベーションを一体的に進めていくようにしようというのが、第4期の基本計画になります。

だから基礎研究を進めるこの話とそれからそういう課題を設定して進めていくというのも大きくて。

湯浅 なるほど。

相澤 イノベーションはまさしくそこの課題を解決する方向に進めていくというところを今やっているんですよ。だから民主党の時代に作られたから、基本計画の中ではその中の3つの重要な分野が特定されているわけです。

1つは震災からの復興。これは国をあげてやる必要があります。その中に科学技術がどれだけ貢献できるかという視点が必要。2つ目がグリーン・イノベーション。環境エネルギーの問題を正面から取り組んで、そしてそれを同時に成長にも繋げていく。そして3つ目がライフ・イノベーション。これは医療の分野です。重要なのが、たとえば再生医療。そういう医療に力を注いでいく。

社会が抱えている課題を浮き彫りにして、その解決に向かう。これは今極めて重要なところです。そのために総合科学技術会議というのを、イノベーションをプラスして付けた理由はそこにあるわけですよ。

湯浅 そうなんですね。

相澤 現在、私はJSTの顧問をしていますがそこで集中的にやらなければいけないのは、研究者の支援体制や大学の中にテニュア・トラック制度を進めるなど、様々な制度の改革です。

こういうようなところを私は今総括していますが、これはむしろ基本計画の中に盛り込まれている内容です。それを実際に実行する段階にきているものがいっぱいあるわけです。

そういうところを十分に見てもらわないと、研究者に対するメッセージとしては片手落ちになっていると思いますよ。特にこういうことで気をつけなければいけないのは、自分のところに研究費がまわってこなかったり、あるいはあるポジションを得たいのになかなか来ないなど、そういう人たちは当然不満が出るところです。

湯浅 そうですね。

相澤 制度が悪いのか、あるいは他の要因があるのか。計画に入れるべきだとか入れないべきだとか、そういう議論にいきなりなるのは大変危険です。

制度的な問題、あるいは仕組みの問題。そういうのがあれば広い意味でのシステム改革というかたちで進める話なのです。それは今本当にいろいろなところでどんどん進んでいます。

本当にまずい仕組みとして動いているということが具体的に指摘されるならば、それを改善するようにしなkればいけない。それは別に基本計画を作るところで言うべきとは限らなくて。

湯浅 今直せばいいじゃないかということですよね。制度の問題であれば。

相澤 そう。今直すチャンスというのはいっぱいあるわけですよ。そこらへんを是非。

湯浅 確かに不満な方が今の制度が悪いという話ってよく出てくるじゃないですか。確かにそこが本当なのかなという疑問があります。いろいろな方とお会いしていると。なのでそこに誘導はしたくないというのは当然あります。

今おっしゃったように4期でこういうことをやってきて、こういうことがあるよというのは、多分非常に大切な知っておくべきことだと思います。おそらく良いことが動いていること自体をそんなに認識されてないというところは非常に多いと思います。

相澤 そうですね。日本が今国際的に非常に危ないんですよ。危機。そういう危機を乗り切るのに何をしなければいけないか。そういう観点は是非ジャーナリズムの世界の人達の使命感として持っていてほしい。

その観点からみるとさっきのような些細な問題なのか、それを解決したところで日本どうなるの?というぐらいの距離感を持って見ることも必要だと思います。本当は解決しなければいけない課題はどこにあるのかということを見失ってしまうといけません。

4期の基本的な特長を話しましたが、それを是非きちんと理解してやってもらいたいのですが、科学者や研究者は自分のやっていることが最善だと思っているんですよ。だから国が支援しなければいけないというのが極端にあるわけです。しかし社会は必ずしもそう見ていないよと。

湯浅 そうですよね。

相澤 だから社会の期待というのは、短絡的なマーケットにすぐ効果があるものを作れとかそういうことを言っているわけではないです。社会が抱えている問題。これを何とか解決する方向へいく。そんなことも考えながら是非頑張って下さい。

湯浅  相澤先生、本日はお忙しいところたくさんお話していただき、ありがとうございました。

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