「産学連携による外部資金獲得の難しさ」

鈴鹿医療科学大学学長・豊田長康氏インタビュー(4)

「産学連携による外部資金獲得の難しさ」
豊田長康氏インタビューシリーズ4回目!
今回は民間から外的資金を得る難しさについて。民間企業にとって、日本の大学への資金投入は見返りが少ないという点から魅力的な投資ではありません。現状と戦う困難と対策について教えていただきます。(※以下、敬称略)


【湯浅】
 研究費の資金源には国以外にも民間があります。大学によっては上手に民間企業と産学連携を行って資金を集めているところもあると思うのですが、そういった外部資金の幅を増やすことで一人ひとりの研究者が使える研究費の額を上げるという方法を、もっと日本でも積極的にとれないのでしょうか?

【豊田】 現在、日本の大学でもずいぶんと努力をしていると思います。ただ、アメリカに比べるとまだまだですよね。圧倒的な差があります。もっと企業がキャンパスの中に入ってきてもいいのかなと思います。アメリカに行くと、企業のオフィスがずらっと並んでいる。

この前、名古屋大学がいろいろな企業をキャンパス内に入れるというようなことを打ち出しましたよね。それで、何十社かと契約を結んだと。おっしゃるように大学と産業界との連携がやりやすくなるように、もっとドラスティックにやっていくことが必要でしょうね。

ただし、最近は企業の研究費も減っており、民間の研究費に大きな期待を抱くことは、なかなか難しい情勢だと思います。企業も競争が非常に激しくて、短期的な視野になっており、基礎的な研究に研究費を投入することは難しいんです。

【湯浅】 確かに、企業が資金を出す場合には費用対効果がより重要になってきます。

【豊田】 製品化に結びつくような研究だったらいいけれども、基礎的研究はコストの回収が難しい。

【湯浅】 確かにそうですね。

【豊田】 だから、大学への運営費交付金の削減は企業からの研究費で賄えばいいではないか、という議論は、一部の上位大学を除いて現実的ではないのです。国が研究費を削って、あと企業がやってくれということでは、日本は勝てません。大企業も研究費に余裕がなくなりつつあり、中小企業は研究費がないのです。やはり産学連携においても、国が大学にお金を出さないといけないと思います。

もう一つ地方大学の立場からすると、大学への企業から投入される研究費の大学間傾斜は、政府の運営費交付金や科学研究費の傾斜よりも、もっと急峻なんですね。そういう悲しい現実があります。

【湯浅】 そうですか。

【豊田】 さらに、もっと悲しいことは、日本の企業は日本の大学よりも海外の大学へ多く投資をしていた。数年前にアメリカのカリフォルニア大学アーバイン校へ行ったときには、日立が寄付をした立派な研究所があり、トヨタの電気自動車がキャンパス内を走っていましたからね。日本の大学からみると、なんともうらやましい話です。

運営費交付金の削減により地方大学の研究基盤のさらなる弱体化が進むと、そのような大学への企業の研究投資も減るはずです。だって、企業は大学を助けるためにお金を出すのではなく、自分たちのため研究をやってもらえる研究基盤のしっかりとした大学にお金を出すわけですからね。研究基盤が弱体化しつつある大学と共同研究をするはずがありません。

【湯浅】 たしかに。

【豊田】 しかも、さまざまな企業の要望に応えようとすると、多様な分野の研究者を取りそろえなければなりません。三重県で、糖に関連した製品を生産している中堅企業の社長さんとお話をしたら、最近、糖の研究をする研究者が日本の大学に少なくなって困っているとおっしゃっていました。また、ある大企業は世界の研究者が振り向きもしない地味な研究、しかし企業にとっては重要な基礎研究のテーマを三重大学に希望しました。選択と集中をしていたら、そのような企業の多様なイノベーションの要望に応えることはできません。

そういうことで、大学へのお金を削って研究者の数や研究時間を減らしているようでは企業との共同研究も進まず、新しいイノベーションが起こる確率は高まりませんね。つまり、大学への研究費削減の埋め合わせを企業に期待することはできません。

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