好奇心と掘り下げ続ける力こそが研究

リバネス代表取締役CEO 丸幸弘氏にインタビュー

好奇心と掘り下げ続ける力こそが研究

『科学技術の発展と地球貢献を実現する』をモットーに科学を志す小中高校生や研究者のために15名の理工系大学生、大学院生が集まり2002年より設立されたリバネス(Leave A Nest)。

小中高校生への「出前実験教室」を中心に、最先端の科学情報の発信や研究受託サービスから飲食店まで幅広い事業を手がけている企業です。

そのリバネスの設立者であり代表取締役CEOをつとめる丸幸弘氏にインタビューさせて頂きました。

湯浅
 今年のサイエンストークスでは来年第5期の計画を作成するにあたり、研究者が考える研究環境や研究のあり方がどうあるべきかといった話し合いをおこなう予定です。

ここを達成するためにどういう活動が実際に必要なのか。実際にそういった活動をおこなっている世界中の事例をいろいろな人からお聞きしたいということで今回丸さんにインタビューさせていただきました。リバネスさんでは次から次へと新しい事業を掲げておられますよね。

 サイエンスとテクノロジーは世界の共通言語です。サイエンスとテクノロジーこそ、大学、企業、国という縦割りの分け方自体がナンセンスです。人類としてどこを目指すかというところがやはりみんな見えていなくて、自分の保守的な場所ばかりをみてしまっているので、大学にいたころはつまんないなーと。

学術だろうが、国だろうが、企業だろうが関係ない。「こういう世界をつくるんだ」といったときにどうチーム編成をするかだけです。

湯浅 なるほど。

 いまの縦割りの変な考え方自体をなくしていきたいですね。なくさなくてはいけないし、大学のポストも減るし、職業研究者も少なくなってくると思います。インターネットのおかげで、一般の人も研究できる時代になってきましたので職業研究者だけでなく、独立系研究者、一般研究者もでてくる。

だから、理系・文系でわけるのもナンセンスだし、大学に在籍して研究した人が研究者だというのもナンセンス。何かをやり始めようとしてる人はみんな研究者なのですよ。そこらへんが日本は遅れてるなと思いますね。

湯浅 そうなんですね。

 できるだけ早く物事をおこして、それをフィードバックにかけて、またおこすというのがビジネスの中でも当たり前になっています。いまはもう計画が立てられない世の中になっているのに、未だに計画を立てようとしていることもナンセンスですね。

5カ年計画なんて無駄です。5年先なんか誰も見えない時代になってきたということをまず認識するべきです。1年計画だってほんとにギリギリのラインですよ。

湯浅 うーん、なるほど。

 そんなことに時間を使っているのであれば、今すぐに何かやれと。それに対してフィードバックをかけて、実装した数で勝負する時代になってきているのに、いまだにライフサイエンスなど学術的なところは一部の偉い先生にたくさん予算が集中してしまい、計画を立てた人が偉いという世界になっている。予測ではなく、つくるという感覚がないとあたらしいイノベーションはおきませんよね。

特にベンチャー企業の場合、必死だから、「3カ月すると違う会社になる」というのは当然なんですよ。5年後に僕らはこうなりますとは言えないから。今できることを、できるだけ早くやれという方針のもと、リバネスでは今年3月からテック系のグランプリを世界で始めたんですよね。半年でシンガポール、台湾、日本でもやって、だいたい80のチームが参加して、先日グランプリで優勝が決まりました。

湯浅 すごい勢いですね。

 そういうのってやろうと思ったら300万もあればできるんですよ。自腹を切って、バーっと動けば。変に助成金書くよりも300万、500万の研究費だったら、企業にアピールしたり、クラウドファンディングで個人から、獲得できる時代になっています。

自分と同じようなことを言っている大企業の社長のとこへ行って、これをやるべきと言ってるけど、同じようなことを一緒にやりませんか?ってね。

湯浅 いまのポスドクの問題などどうおもっていますか?

 僕は少なくとも若手の研究者も悪いところがあると思っています。若手は人のせいにして、ポスドクの問題を国のせいにして。リバネスでは、自分が動かないことが1番のリスクだし、自分が動かないこと自体が負け犬というくらいの根性でやっています。

食わなきゃいけない人たちは、こんな話し合いをしている暇はない。

湯浅 動くしかないと。

 動くしかないということを教える以外、方法論を議論しててもしょうがない。僕はそういうのが嫌だったから、12年前にリバネスをつくりました。この船に乗った人が15人で、まずは生き残りました。そこから、50人、100人という形で生き残りをかけて研究をやり続けて世の中を変えていきたい人だけを集めている。

「議論したい奴は来るな、動きたい奴は来い」と言って、ガンガン、エンジンを今、増幅させているというのが、リバネスなんです。

湯浅 そうなんですか。なるほど。

 文科省の人には、半分冗談で「僕に1億円預けて下さい」ってずっと言っています。なかなか民間に直接お金を出す仕組みがないので、文科省はそこを改革しない限り日本を変えることは無理だよと。僕のまわりには有名な変革者はみんな民間にいます。民間のエデュケーションベンチャーもでてきたし、まさに研究環境を変えようとしている会社がたくさんあると話しています。

NPOや大学にまかせるからなかなか大きな取り組みにならない。民間にダイレクトに落とさせて、民間から大学を巻き込む形にしようというのをずっと提言しています。リバネスと文科省で組もうと話しているのですが、前例がなく、なかなかすすまないですね。

湯浅 文科省とも話されているんですね。

 「日本の研究.com」というサイトをリバネスの関連会社で作っていますが、あれはそのへんの変なデータベースよりかなり完成度は高いです。検索率が日本でもトップレベルで皆研究者や関係している会社は、あれを検索しています。

でも、国はまた違う研究者のポータルサイトを作っているのですが、相当な金額を制作とメンテナンスで使っています。リバネスでは2000万で作ったのに。自腹で、2人のエンジニアで。無駄ですよね。民間に任せることでコストは削減できますし、より良いものができるんです。そういう政策を提言していますね

湯浅 そうですね。すごいお金の無駄遣いしていますね。

 別にお金はいらないから勝手にやらせてくれればいのにと思います。サイト制作なんて簡単にできます。国の政策も含めて、PDF化になっているものも、すべて要約のアルゴリズムを作って。知恵というのが世の中に埋もれていて、それを掘り起こすという仕組みさえ作れれば、もっと日本の研究者は豊かに研究ができると思っています。

ヒット率が上がれば、広告だけでも月30万くらいは利益をだせますし、そこからメンテナンス費用はまかなえます。

湯浅 最近は研究者の不正問題などもあり、一般の方からの研究者への指摘も多くなってきた気がしますよね?

 宮川先生さんも言ってるけど、不正問題について。研究の不正がどーだ、こーだというのは、昔からいっぱいあるじゃないと。

もともと、論文というもの自体を一般の方はしっかりと理解していないと思います。ビジネス雑誌や普通の雑誌と仕組みは一緒です。編集者がいて、誰かチェックする人がいて、印刷して、出しているだけ。そしてたくさんの研究者が参考に読むものなんです。実験を再現するのはなかなかできないでしょう。

だから、ビジネス書と一緒です。研究というのはわからないことをわかろうとする力であって、正しいことを言うものではないというのが原点にあります。それがいつの間にか、研究イコール真実、宗教のようになってしまった。研究というのは、真実なんか一個もありません。

そもそもそこが全然わかってなくて、研究とはやり続ける力の事をいうのです。研究というのは真実がわかることではない。永遠に謎なんです。だから面白い。

湯浅 なるほど。

 好奇心と掘り下げ続ける力というのが研究力なんです。研究力を持った人を研究者、と総じていっているだけです。文系、理系ではなくて、政治家も研究者の方がいます。国王にさえ研究者がいます。研究力を持った人がいるわけですね。ジョブスも経営者ではないですよね。世の中にこれを投げつけたら何が起こるかやってみたいと、投げつけただけじゃないですか。

だから、これからのキーワードは研究者なんですよね。研究者とは何か、研究力とは何か、研究とは何か、を世の中にちゃんと伝えていかなければいけないとおもっています。

湯浅 キーワードは研究者。

 今、政治家や政府が勘違しているのはサイエンスイコールビジネスのネタになるということです。イコールではなんです。サイエンスはビジネスのネタではない。真実をわかろうとする力であって、確からしいものではないので、ビジネスには利用できないです。

そもそもそれがビジネスではない、サイエンスだと。テクノロジーやエンジニアリングというのは逆ですね。事象がわかっていなくても、物事が成り立てば、ビジネスになります。

湯浅 たしかに。

丸 リバネスが現在推進している教育はNEST education、と呼んでいます。Nature、Engineering、Science and Techの頭文字をとっています。実はこの順番がすごい重要で、人間というのはそもそも自然から学ぶ、自然を尊ぶ、自然を解明しよう、知ろうとする力というのが原点なんですよ。

すべて自然現象ですからね。Natureというのがまず重要な考え方で。自然から学ぶ、でも自然は永遠にわからないということも実はわかっていながら自然にアタックする。これがNatureの考え方で。その後、自然を見て真似ようというのでEngineeringがきました。順番はこうなんです

湯浅 そうなんですね。

 Natureがあって、食べ物を自然からとってきて、これをいつも食べたいと農業をはじめたり、それからNatureを見て、鳥が飛んでるのをみて飛べないかなと考えて、それがEngineeringにつながる。飛んでみようと羽を作ったり。人間は好奇心の塊です。

Scienceや、Technologyとして汎用性のある形にロジックを組んで論文にまとめました。論文としては、ScienceとTechnologyというのが重要な位置を占めています。

湯浅 そうなんですか。

丸 いつの間にか研究が職業化し、研究が大型予算化し、お金を採っている人が偉くなります。そこがもう間違っていると。このままでは破綻するということを75歳以上のリタイアした先生が言います。そこの考え方をもう一度、再インストールしなければなりません。僕はその仕事をやっています。

サイエンスとテクノロジーは経済とイコールじゃないよというのをもう一度しっかりと言わなければいけない。原点は自然界から学ぶという考え方がない限りいけない。どの分野もお金を平等に分配しないといけないのに、産業応用のとこだけにかたよってしまってはいけませんよね。

湯浅 そうなんですか。

 応用的研究というのはエンジニアリングなので、もうこれは開発研究になります。

私が技術顧問で、ミドリムシの研究をおこなっている株式会社ユーグレナは、もともと数百年の藻類の基礎研究の上でなりたっています。僕らがやったのは開発研究です。45mプールでミドリムシを大量に生産しようということです。当然、インパクトファクターの高い論文にはなりません。

45mのプールのオープンエアーで、ミドリムシが殖えればいいんですピュアに。全部、基礎研究です。何年もの基礎研究を全部を組み合わせて、ユーグレナはこういう性質があるという情報をすべて持ち寄って開発がすすみました。

20本、30本、100本、基本的な論文を読んで、仮説を立てて、4何度も何度も45mプールでやらなくてはいけない。ここに応用的研究を噛ませてしまうからかなりアウトなんです。ベンチャービジネスで、大学発ベンチャーが失敗しているのはフィジビリティ・スタディみたいな形で金がまた大学に落ちて、よくわからないポスドクがベンチャーっぽいところに雇用されてるから、人材の流動もなく、研究のための研究になり終わってしまうんですね」。

湯浅 なるほど。

 社会とビジネスというものと、研究というものの繋がり方というのが全く理解できてないと思います。でも、言ってもわからないのは当たり前ですよ。やったことないから。だから、僕は研究者でこっちをやれる人を増やそうと思っているんですよ。

これからやろうとしていることは、すべての論文にあるマテリアルメソッドを全部使えるようにデータベース化し、すべて可視化していくこと。それをすべてロボットで再現する場所をつくりたい。これできたらすごいですよ。

湯浅 そうなんですね。

 僕は最終的にラボというのは頭の中だと思っていて、全部、作業はロボットに変えることができる。21世紀最初は、考える時間を与えず、ロボットのように学生が作業をしていたんです。それが僕らの時代、2001年から始まったゲノム時代というところで研究者のポスドク問題が大きくなっていったんです。

考える力がなかったのではない、考える時間を与えなかったのです。そういう歴史的背景も含めて大型予算というものとか、たまたま力があった人たちが力をなくしていきました。そういうことも全然言わない。なぜかというと、偉い先生が予算を取っているからです。偉い先生が作業員をたくさん量産したから。それが真実なんですよ。

バイオサイエンスはカッコイイと思っていたら、カッコイイのは大学の先生だけみたいな。真実ですよ。一番努力している一番才能ある人の才能が潰されたのがポスドク問題。だから、ポスドクの方が能力ないと思ったことは1回もないです。

 

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丸幸弘氏のプロフィール:
株式会社リバネス代表取締役CEO。1978年神奈川県横浜市生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。リバネスを理工系大学生・大学院生のみで2002年に設立。日本初の民間企業による科学実験教室を開始する。中高生に最先端科学を伝える取組みとしての「出前実験教室」を中心に200以上のプロジェクトを同時進行させる。2014年2月には、日本実業出版社より著書『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』を出版。
丸幸弘氏インタビュー(下)≫

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