「独立系研究者」ってなんだ?!(3)

Science Talks LIVE、第1回のトークゲストは独立系研究者の小松正氏。大学の研究者でもなく、理系企業の研究開発ポストでもない、研究機関と直接個人契約を結んで研究に参画する「独立系」という第3の働き方とは? 独立の経緯から実際の研究の進め方、成果まで詳しくお話を伺いました。

クロストーク その1:依頼から成果発表まで、企業と研究者の相利共生

小山田 ありがとうございました。ここからは私との間で、クロストークという形で進めたいと思います。もう少し突っ込んでお伺いしたいんですが、小松さんが普通の技術コンサルタントと違うのは、研究までご自分でされることですよね。

小松 そうですね。

小山田 企業さんと契約して、研究部門を請け負うっていうことですけど、その成果をちゃんと論文として出せるというところまでやっておられる。具体的にはどういうことをされているのか、例をお話しいただけますか?

小松 具体的な研究テーマと関連付けながらお話しすると、独立してほどなく本格的に取り組んだテーマに離床センサーの開発があります。離床というのはベッドから離れるという事なんですが、病院や福祉施設で入院中の患者さんや入所者の方がベッドから勝手に出て行っていなくなったり、転んで怪我をされたりすることが医療現場のかなり深刻な問題としてあるそうなんです。一方で私の知り合いでセンサー開発をやっている会社の社長さんがいて、人間の行動の種類を判別するセンサーを作ろうとしていた。ベッドから人間が出掛けようとしているかどうかを検知する、高性能の離床センサーです。ただ、その会社のスタッフは全員工学系だったので、人間を検知対象にしようとする時に実験をどう計画して、データをどう解析すればいいのかが分からないという話になりました。じゃあその部分、人間も含めて生き物を対象にしたときのデータのとり方や取得したデータの分析を私が担当しましょうということで始まったんですね。

会社としては、製品化できればそれでいいんです。あるいは特許出願ができればいい。私の立場からすれば、人間という生き物の測定データをどういう風に分析したら行動が判別できるのか、データに基づいて行動を判別する技術を開発すること自体が生物学として考えても1つの成果になる。オファーを出している社長さんの希望を実現しつつ、そこに自分の興味関心を巧い具合に関連づけて、この時の結果は論文ではなく特許の形で出したんですが、特許の中に自分の名前が、発明者のところに入るということになったんです。こういう形で成果物としてアウトプットしていくのが1つの例ですね。これがその時開発した離床センサーで、ベッドを上から見下ろして人間の体から出る赤外線の熱量を検知します。体の動きと赤外線の時間変化のパターンから、行動の種類を判別できるようにしたということです。

人間ではない動物を対象にした例がこちらで、魚の体に取り付けるデータロガーを作りました。温度や圧力のセンサーを組み込んだいわば記録計です。野生生物の研究というのは、研究者や調査員が行って観察してデータを取るというイメージかもしれませんが実際やろうとすると非常に大変です。特に海洋生物だと海の中まで追い掛けて行くことはほとんどできないので、体にデータロガーをつけて記録を取る、バイオロギングといわれる手法を使います。データロガーをつけた魚を海に放して、その魚が漁師さんの網などにたまたま入って回収される。データロガーには研究者の連絡先が書いてあるので、漁師さんから連絡をもらって取りに行きます。中のデータを吸い出して、時系列的な変化パターンを解析して、何月何日何時ごろには深い場所にいたとか、浅い場所にいたとか、塩分濃度が高い場所にいたとか、そういうことが分かるので、更にそこからその魚の行動、生態を判別することができる。センサー技術の発達によって実現できた、生物の行動研究の先端領域です。

このデータロガーなんですが、既存の製品は海外製ばかりで高かったんですね。大学の研究室はお金をあまり持っていないところも多いので、高い実験器具を大量に購入するのは難しい。競争的資金がたっぷり取れた年は研究できるけど、そうでない年はできませんということになってしまうわけです。そこで既存の製品よりも遥かに安く、使い勝手の良いものを作ろうと考えて、研究者側のニーズを調べました。私自身が研究者だから、生物系の知り合いからいろいろ情報収集したり、自分の経験からも考えやすいんですね。センサー開発の工学研究者と協力しながら、使い勝手のいいセンサーの実現をしましたというのが、これなんです。センサーができると次は、それを使って測定した生物データをどんな風に分析すればいいのかという生物測定的な技術開発が必要になる。私としてはその部分の成果を、共同研究した大学の先生と一緒に学会発表できますし、論文に名前も載せてもらえます。会社の方も製品化できるのでそれで儲かると、そういう関係です。

小山田 ありがとうございます。まだまだ例はたくさんあると思いますが、ちょっとここで小松さんとも一緒に研究会に参加されているNISTEPの林さんから、コメントをいただきたいと思います。林さんはオープンサイエンスを指導、リードされる立場で、サイエンストークスの委員でもあります。この後お帰りにならなければならないということなのでこのタイミングで。林さん、お願いします。

 NISTEPの林です。サイエンストークスは今は委員ではないんですが、前職の学会のときに立ち上げに関わらせていただきました。小松さんとは、この後の話に出てくると思いますが、総合研究開発機構の研究会でご一緒させていただきました。

オープンサイエンスの観点から見て、2、3点コメントさせていただきたいと思います。独立系研究者がこのような形で出てきているというのは、研究のリソースがオープン化しているという話と、ヒト、モノ、カネのネットワーク化が進んでいるという、この2点で説明できるんじゃないかと思います。

第5期科学技術基本計画だけでなく、今(註:2016年9月)G7の科学技術大臣会合でも、オープンサイエンスの推進ということで、作業部会を設置してポリシーを策定しようとしています。もうそこでは研究活動そのものの在り方が変わり得る。そのために必要なデータ基盤インフラは、研究者に対するインセンティブモデルは何かという議論が始まっています。そういう流れの中で、リソースはオープンになっているこの状況下でどういう研究の在り方があるのかと考えたとき、特に組織に属さなくても自分の力で必要なリソースを手に入れられる、資金も取れる、ネットワークも構築できる研究者が出て来るだろうという仮説が成り立つと思うんですが、実際にはその仮説よりずっと前から、小松さんは取り組まれていた。だからこそ今パイオニアとして、注目を浴びておられるのではないかと思う次第です。

もう1点、組織や社会のオープン化というと、これまではどちらかというと例えば大学が情報をオープンにするとか、研究室がアウトリーチでオープンするというような、敢えて言えば上からのオープン化が多かった。小松さんの場合、自分のスキルをオープン化させてさまざまな可能性を作って発展させるという、個の方からみたオープン化も実践されている。そちらの観点からも、ぜひ皆さん個々の自分の処世術としてご検討いただければということで、コメントさせていただきました。

小山田 ありがとうございます。

小松 林さんとは、何も事前の調整をしなくても、本当に思い通りのことを言ってくださるので、大変助かります。

小山田 ありがとうございました。それではもう1度さっきの話に戻りますが、具体的な研究例を色々見せていただいて考えたのは、研究することが企業にとってどういう意味を持つのか、企業側のインセンティブがどういうところにあるのかということなんですが。

小松 企業の側からすると、何らかのきっかけ、チャンスがあったとき、例えば助成金が取れそうだとか新しい顧客が獲得できる可能性があるというときに、新しいことに取り組もうとしますよね。ただその新しいものに取り組むときに、社内の既存のスタッフだけだと、十分な人員を賄えないことがある。特に中小企業ではよくありますね。もう1つはベンチャー企業の場合で、社長さんや創設したメンバー自体がある分野では大変なスペシャリストの場合が多いんですが、だから最初はその自分たちの一番の得意分野の技術で製品化して、暫くはそれで行くわけです。ところが、事業を拡張したり、新しいものを生み出し続けようとしたときに、自分たちの専門分野だけだと巧く行かない、壁にぶつかるということがある。そうなったときに、工学系の方から見ると生き物というのは良く分からないけれど、協力したら何か良いことがあるんじゃないかと思われる場合があるようです。医療系の方の場合は生き物との繋がりは思いつきますが、逆に工学系の方々とはこれまで関わりが薄かった。でも今の時代、関わってみようと思えば協力し合えるんじゃないか、そういう思いを持たれているように見えます。こういう流れで、自分たちとは違う専門知識を持っている人とコネクションを持ちたいと考えたときに、生物系の私がちょうど都合がいい。そういうことなんじゃないかと思います。

小山田 企業として研究発表をするというところで、やっぱり企業側としてはこの製品は良いものですよ、ちゃんと機能しますよというデータが出て欲しいと思うんですが、研究である以上そうならない場合も多いと思います。そういうときはどう対処されているんでしょうか。

小松 実際データを取って検証した結果、当初期待した効果があまりなかったということは確かにありました。最近多いのは天然素材ってありますよね、天然物はいいものだという一般的なイメージもあるようで、天然素材を用いて商品開発に取り組むベンチャー企業も多くあります。そういう企業とのお付き合いも多いんですが、例えば天然素材を使って農業資材を開発して、実験してデータを取ったら有意な効果は出ませんでしたというようなことも残念ながらあるわけです。そうなったときにそれを踏まえて「次のステップをどう考えていきましょうか」とおっしゃる社長さんとはもちろん継続して取り組みますが、ねつ造とまでは行かなくても微妙なデータを無理に公開しようとするような方だったらさっさと離れてしまいます。私は社員ではなくいわば業務委託契約ですから、この社長さんは問題があるなと思ったら関係を切ってしまいやすいんです。こういう研究者が増えて来ると、怪しい調査結果も減ってくるかもしれないですね。

小山田 独立しているからこその自由ですね。

小松 そうですね、先ほどの自由度の高さの話につながります。

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