政府の「ゲームチェンジ」という言葉が意味するもの・科学が市民に委ねられる新しい時代へ 〜勝手に「第5期科学技術基本計画」編集部反省会(第6話・最終話)〜

2016年1月22日に閣議決定され、すでに施行が開始された政府の第5期科学技術基本計画。当然気になるのが、「僕らの提案、少しは盛り込んでくれてるのか?」という疑問。そこで、サイエンストークスの小山田和仁さん、嶋田一義さん、湯浅誠さんの3名が集結。政府の答申案をサイエンストークスの提案内容と比較しながら、日本の科学技術の今のこれからについてじっくり語りました。

(収録は2016年1月、政府の答申案を資料として利用しています。)

政府の「ゲームチェンジ」という言葉が意味するもの・科学が市民に委ねられる新しい時代へ

嶋田

嶋田 僕は今回の第5期科学技術基本計画を読んで、「ゲームチェンジ」と言う言葉がこういう行政の文章にでてくるのが面白いなぁ、と思ったんですよ。

「ゲーム」ってルールがあって、そのルールのもとで達成する人が勝ちなわけでしょ? 例えば、キャリアで言ったら「東大を出るのが勝ちです」とか、国の産業で言ったら「ものづくりで世界一になるのが勝ちです」とか。でもね、政府の計画で「ゲームのルールを変える人を望みます」とここに書いてるわけですよね。これってすごいことだと思うんですよ。

だってね、「ゲームをチェンジしよう」って言い出す人は、今の社会の限定されたルールの中ではいわゆる負けてる人ですよね。勝ってる人は絶対言わないですよね、「ルール変えようよ」なんて。

湯浅

湯浅 間違いないですね。ゲームに勝ってたらルールは変えたくないですからね。

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嶋田

嶋田 ルールを変えることによって、今まで勝ってた人を負けさせて、今までのルールでは勝てなかった人を勝たせることができるんですよ。ルールを変えれば 自分が勝者になれるかもしれない。

要するに、 今まで掲げてきた目標や課理、理想というものが今社会において崩れつつあるという認識をみんなで共有しました、という完全なる証拠ですよね。このままじゃ勝てない、だから多様性が必要なんだ、とそういうことを今、政府の基本計画という文書を通して言ってるわけで。

だからこの「ゲームチェンジ」という表現を安倍首相に対して答申する行政の人たちが言う、という問題意識の深さがすごいなと思いますね。

小山田

小山田 日本の社会が大分行き詰ってるので、「これまでのやり方じゃもう、ちょっといろいろどうにもならないよね」と。せめて次のステップへの道筋が見えてれば、ポンっとやり方を変えちゃえばいいのかもしれないけど、それさえわかんない。

わかんない時には、いろんなアイディアをとりあえず出させてみて、実験的にやってみて、競争させて、その中でいいものが出てきたら次のステップとしてもっと大きくしていくというやり方もある。

政府がこう言っているからには、多分そういう実験的な試みを促進するような政策を立てるという動きが今後出てくるんだと思いますよ。

湯浅

湯浅 それを聞いて今考えると、まさにこの問題意識があったからこそ、サイエンストークスみたいにどこの馬の骨ともわからない、「なんなのこいつら?聞いたことないよ」みたいな新しい団体である我々の声をハードルなく聞いてくれたのかな〜と。

小山田

小山田 昔だったらなかったでしょうね。

湯浅

湯浅 でしょうね。昔だったら経団連だ、日本学術会議だ、というちゃんとした看板があるところの意見だけ聴くのが普通だった。今はそれじゃだめだと。

小山田

小山田 第1期、第2期科学技術基本計画の作成ときに我々が提案して、こんなふうに聞いてもらえたかというと、やっぱりなかったでしょう無理だったと思います。変革されていますよね。

科学技術や社会の考え方、やり方が昔と変わってきていて、企業にしろ行政にしろ、今はわりとフラットな関係性になってきて、外からアイディアを入れることが普通になってきた。

その動きの中で「オープンサイエンス」と言う言葉が出てきて、データをオープンにするとか、多様なプレーヤーにオープンになってきた。この第5期計画作成の時期は、まさにオープンなやり方が広がっていくタイミングだったというのがある。

湯浅

湯浅 そうでしょうね。たしかに。

小山田

小山田 第6期科学技術基本計画の作成のときには、もっと全然違うやり方が多分あるんじゃないかと思います。気が早い話だけど。

嶋田

嶋田 これって、科学技術イノベーションへの責任が行政側から市民側にどんどん移行していってるんだと思うんですよね。今までは行政がリーダーシップを発揮して、「ナノテクノロジー行くぞ!」、「半導体行くぞ!」、「ライフサイエンスやるぞ!」って言い出して進めていたわけですよ。

その時代は、まず行政が旗を降って、みんな同じ方向を向いて「みんなで協力してやろうよ」、とそういう順番だった。

湯浅

湯浅 まさにそうでしたよね。

嶋田 政府が「人が大事です」、「多様性が大事です」、「みんないろんなことやってみてくださーい」と言うと、下手するとアナーキーになるじゃないですか。

政府は実験的活動を許しながら、その中で限りある貴重な人材とお金をうまく使って、日本の科学技術と社会をよくしていきたいという気持ちを現場の人たちと共有し、信頼関係を作っていかないといけない。別の読み方をすると、要するに今の時代、「旗振り」をもう行政に頼めなくなったというメッセージでもあると思うんですよ。

現場は自分たちでいろいろ試行錯誤しながらも、日本の科学技術をよくしていこうという思いがバラバラにならないように、愛と平和の精神でもって、共にどうやって働けるんだという問いをつきつけられていることになりますよね。

そういう認識を政府は現場ときちんと共有しておかないとダメですよね。こうなった以上、現場の人が後で「この基本計画に書いてある通りに本当になるんですか?」と行政に向けて言ったって意味ないし、行政は「私たちは分からないですよ」と答えると思いますね。

湯浅

湯浅 そうですよね。そういう意味で、サイエンストークス版の第5期科学技術基本計画への提案書は、この時代だからこそ「僕らが現場でできることはやります、政府はそれをサポートしてください」というスタンスで作ったんですよね。

そして提案書を作ってるときに協力してくれた皆さんは自分がアイディアと思いをもっていて自ら発信し動いてくれる方々だったわけです。

こういう自分で動ける人たちがアカデミアでもっともっと増えないといけないと思うんですよ。私にとっては研究現場の方々はお客様でもあるのですが、その関係性を乗り越えてあえて言うと、企業もアカデミアも根本的には同じだと思うんですね。経営者として社員と接していてよく感じるのは、「君は組織の一構成員として、あるいは企業を超えた社会の構成員として自分の状況を変えてよくしていく力をもっているのに、なぜ会社にばかり『変われ』というのか」と。

どこでもいっしょです。日本の場合、えてして会社に何かしてもらいたい、国に何かしてもらいたい、という気持ちが強い人が多いけれど、国や会社ってなんですかと。

経営者も人だし、発信し動いてくれなければどうしたらいいかわからない。「やって」じゃなくて「一緒にやっていきましょうよ」と切り出してほしい。

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嶋田

嶋田 ケネディも言ってましたよね。「Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country(国があなたにしてほしいことを求めるのではなく、あなたが自分の国のためにできることを求めなさい)と。あの時代のアメリカにすら人にはそういう精神があったんでしょうね。

小山田

小山田 やっぱり大きな流れとして国にできることの限界が出てきていて、中間組織というか、場が必要になってきていると思います。個人レベルではなくて、もう少し大きめの規模コミュニティがまとまって、次の時代のために必要な方向性を見つけていく。

オープンに、競争とともに新しいものを作っていくことのできる組織とか場が必要で。それは現場でやらなくちゃ。やってみてここんところはどうしても国で動いてもらわないといけない、ということがあったら、「ここは動いてください、よろしく」と。そういう連携ができないと、これ、動かないですよ。

湯浅

湯浅 ですよね。

小山田

小山田 全部を国が動かそうとしたって、国だってすべての情報を持っているわけではないので、結局何がうまくいくのかわからない。

今はどうしていいかわからないと、名の知れた声の大きい個人に聞きに行くわけでしょう。そうすると「これが重要だから国をあげてやりましょう」と言われる。それで進めると、現場の他の人たちから「なんでそんなものをやるんだ」と批判を受ける。

そういうやりかたじゃなくて、やっぱり日本のコミュニティ全体で、こういうことやっていくべきだ、こういう取組を進めていくべきだ、という コンセンサスをある程度とりつつやっていったほうがいい。そのための議論の場や組織は必要だなと思います。

「ガチ議論」はそれをやろうとしているし、サイエンストークスもそういう一つの場です。この動きはもっと広がる必要があるし、本来であれば現場を持ってる大学とか、研究所とか、学協会とか、そういう中の人がやりはじめないとやっぱり動かない。

湯浅

湯浅 「ガチ議論」は素晴らしい事例ですよね。あれは日本分子生物学会内の有志の研究者の方々の情熱で続けられていますけれど、もっと横に広げていって、分野を跨いだ一つのムーブメント にしていくべきだと思います。

その仕掛けを裏からサイエンストークスがサポートできたらいいな。私たちは表に立って旗を振るというより、第三者機関としてサポートに回りたい。学協会の方が、こういうのやりたい、って時にそれを盛り上げる助けになれたらと思います。

小山田

小山田 場作りのちょっとしたノウハウを提供するとかね。

湯浅

湯浅 そうですね。「ガチ議論」さんは関わっている方々が体を張って活動されていますよね。あれを他の学会さんもぜひやってもらいたいなと思うんですけど、そこは「人」なんですよね。

小山田

小山田 活動すべき現場の人も「自分は科学技術政策が専門じゃないから」と。

湯浅

湯浅 そうなっちゃうんですよね。

嶋田

嶋田 でも僕、さっきの話に戻るけれど、人には家庭があり、仕事があり、その間に「ソーシャル」があるという話を、もっとみんな意識したほうがいいと思うんですよ。

つまり政府が強くリーダーシップ発揮している時代には、いわゆる一般の人は、自分の家庭や仕事に邁進していればよくて、きっとそれでも社会がちゃんと回ってたと思うんですよね。けれどみんなが迷い始めて目標がどこなのかを見つけなければいけない事態には、「どうしたらいいんだろう」ということを、いっしょに膝詰め合って、こう、考えないと。

社畜になって仕事を頑張って自分の家庭を守るるだけじゃなくて、横の人たちとつながって、「ところで僕たちどこに向かいますか」という話をする時間をもたない限り、次の新しい流れってできないと思うんですよね。

仕事が忙しいからできませんとか、専門じゃないからうまくいきませんという話じゃなくて。

小山田

小山田 肩書に縛られないで動くことが大事なんですよ。役職があってお仕事で活動するのでも、フリーで一人好きなことをやるというのでもなくて、何らかの大切な活動にコミットしている個人、として活動することが。

以前にアメリカのAAASのトレキアン氏のインタビューを撮りましたよね。彼の話を聞いた時に、やはりAAASの活動はあくまでも個人として参加するものだと。

メンバーは役所の人であろうと、大学の人であろうと、研究の人であろうと、一般の人であろうと、普段の肩書きとは無関係にAAAS として話すときには参加するし、そこでの意見でもあくまで個人の意見なんだと。

科学技術に関わるなんらかの仕事をしている人は、サイエンスというものに対しての愛というか、パッションを持ってるわけで。その思いを軸にした集まりというかネットワークに参加することが重要だと思いますよ。

湯浅

湯浅 そうですね。

嶋田

嶋田 そうですよね。 行政機関で働いてる人だって一市民というか一社会人として僕ら仲間じゃないですか。

同じく日本の科学の先行きを危惧してる人として、行政の人は行政のことばっかり考えてないで一緒に話しましょうやと。研究してる人も講義と研究の話ばっかり考えてないで、いっしょに話しましょうやと。一緒に話し合う必要はあると思います。

たとえ今は行政がリーダーシップを発揮する時代じゃないとしても、まったく臆することはないというか、一緒にやりましょうやと思いますよね。

湯浅

湯浅 我々事務局もそうですからね。研究者をサポートする企業で働く一人として、やはりサイエンスに対する何らかの愛を当然持っている。

この仕事を始める前はそんな思いはなかったんですけれど、働いていたら情熱がうまれて、仕事を超えてもっと何かしたい、なんとかしたいと思う。

2013年の「ガチ議論」の時に、元文部科学副大臣を務めた鈴木寛さんがまさにこうおっしゃってました。「みなさんの5%の時間を科学技術について費やしてもらえたら、それだけでもかなりのものが出来上がるんじゃないですか」と。

だから、研究者の方が「僕は○○の研究者だから、科学全般や政策は僕の仕事と関係ないよ」というふうに思ったらダメだと思います。

科学が好きで仕事に選んだのなら、自分の専門を超えた科学そのものについてもきちんと語って、自分のエネルギーの5%分だけでいいから関わってみませんかと。すごく関係があるじゃないですか。

小山田

小山田 楽しいですよね。AAASでの事例とかを見ると、海外のそういう集まりってみんな愛があって楽しくやってるんですよね。問題をどうにかしなきゃいけないというだけじゃなくて、もっと楽しくやってるんですよ。

嶋田

嶋田 楽しくやらないと力出ないし。楽しくて人が集まるから、そこで話そうやって、なるんですよ。

湯浅

湯浅 第5期科学技術基本計画の5カ年が正式に始まって、我々サイエンストークスの活動が終わりかというと、そうじゃないじゃないですか。小山田さん、嶋田さんはサイエンストークスのこれからをどう考えますか?

小山田

小山田 計画はどう実行に落とし込んでいくかが重要です。

僕らはサイエンストークスとしてこれから起きる現場の改革をしっかり取り上げてフィーチャーしていくということが大事だし、これから考えたい、議論したいという人たちがいれば、人たちを集めてつなげていく場として機能するのがいいと思います。

提言して、計画が出たって、実行されなければ変わんないわけです。新しい取り組みを取り上げることで横展開していくこともできるし、一緒に活動することもできると思います。

嶋田

嶋田 サイエンストークスを今後どうしていきたいかという話は、「自分たちはどう科学と関わっていきたいか」という原点に立ち返るといいと思うんです。

思いを持った人が集まっているわけだから、基本的にはメンバーがやりたいように、やれることをひとつひとつ一生懸命やって、事例を積み上げていくべきなんじゃないかと。僕、提案書で駒井さんが取り上げていたアルス・エレクトロニカの事例、好きなんですよね。

僕らも海外ですでに実践されている事例を学んで、自分たちが実践してバージョンアップさせていく必要がある。サイエンストークスは、 そういうよい事例をちゃんとトレースして、拾いあげて可視化させていくところであるべきだと思う。

あとで振り返ったらちゃんと轍ができてるように。だから、やっぱり集まってる人たちの元気維持させるのが一番大切かもしれない。みんなが「これやろう」と言ったことを、じゃあどうやってやりましょうかと、話し合う場であれば いいと思うんですね。

湯浅

湯浅 その場としてまさに、新たな動きを始めていきたいですね。

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