オープンアクセス夜話(第8話)何故オープンアクセスは“無関心”の対象なのか?

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研究者 VS. 学術情報流通のプロによるオープンアクセス談義、第8話はオープンアクセスが研究者の興味の対象とならない理由について。今までの記事を通して、オープンアクセスがもたらすプラス効果を認識していただけたと思います。それでも、日常の中で、実際不可欠だと感じる瞬間は少ないのでは?そう、オープンアクセス導入を巡る大きな障壁は、日本ではOAへの“無関心派”が最大勢力であること。研究者個人にとってオープンアクセスが魅力的に映らない理由とは?多くの著名ジャーナルが定期購読モデルを貫いている理由は?そしてその現状を打破する方法について、宮川氏、林氏に語っていただきました。

オープンアクセス夜話、クロストークのはじまりはじまり。
※聞き手:湯浅誠

<これまでのお話>

 

第8話 何故オープンアクセスは“無関心”の対象なのか?

湯浅 これまでの議論を踏まえて、委員としてご協力いただいているサイエンストークスの今年の企画、「勝手に第5期科学技術基本計画みんなで作っちゃいました!」を通して、ここは総合科学技術会議さんや文科省さんに検討してほしい!というアイディアを提案するとしたら?

宮川 おくればせながら、日本ではオープンアクセス化はどんどん進めて欲しいです。

 宮川先生のいらっしゃる生命科学系の分野だと、ほんとに待ったなしだと思うんですが、分野によってはなかなか研究者の同意が得にくいところもあるので、気をつけなきゃいけない。そこに多少の過渡期の移行措置が必要だと思います。

宮川 オープンアクセスに抵抗のある分野や研究者というと?

 抵抗というか…、「抵抗する」っていうのはまだオープンアクセスの議論に乗ってくれるっていう前提なので、関心がある証拠なんですよ。むしろ多くの研究者が無関心なんですよね。なんで無関心かというと、私の出身の化学を例にとると、ほとんどのジャーナルは購読費モデルで、オープンアクセス誌はそもそも少ないという現状があって、研究者の普段の生活習慣の中でオープンアクセスを意識することがほとんどない。しかも悩ましい実態なのは、トップジャーナルであればあるほどほとんどの研究機関で購読されていて、それは間接経費だろうが結果的に図書館の方からお金が払われていると。研究者がお金を払っている意識がない。

宮川 化学ではオープンアクセス化しなくてもあんまり困らないってことですよね。

 オープンでもオープンでなくても研究者から見ると変わらないんですよ。見たい時に見れちゃうんで。

宮川 だいたいどこの図書館でも購読していますからね。

 購読費モデルの場合には投稿料をタダにしている学会出版社、商業出版社が多いので、研究者にはお金がかからない。実は図書館が苦労されていたりいろんな問題があるんだけれども、研究者個人からは、見えてないんですよ。

宮川 オープンアクセスだと、APC (Article processing charge)払わなきゃいけないから、著者には痛いですからね。

 「オープンアクセスの時代」と言って一見すべてがオープンに聞こえますけど、論文がオープンアクセスな代わりに著者に1,500ドル払ってくださいっていうモデルですから。今までお金を意識してなかった研究者にとっては「ゲッ」てなっちゃうわけなんですよ。

宮川 経費があんまりない方々にとっては、1,500ドル払うのはちょっと厳しいっていう場合もありますよね。

でも、それって図書館の購読費用を投稿費用に回せば補助されますよね。あと、学会がそもそも出版にお金出しているから掲載料が無料になっているのであって、学会と図書館が支払っている分をAPCに補助することで著者が払う費用を下げることは出来るんじゃないでしょうか。

 そうですね。そのやり方は購読費の「リダイレクション」というキーワードでよく議論されています。高エネルギー物理分野なんかではSCOAP3というプロジェクトで出版社と図書館と研究機関が共同になってやっています。

宮川 リダイレクションをやるためには、研究者と機関、学会が協力してやらないとできないんですよね。

 そうなんです。結局、研究者の欲求は研究費がもらえて自由に研究できること、そして名誉を含む自分のポスト獲得ですよね。この3つにつながるものであれば、もう喜んで動いてくれる。オープンアクセスを義務化したいなら、その欲求に答えられるような仕組みにしてあげないと。水を低いところから高いところに上げるような話になってしまうと長続きしない。そういう意味で、今ほとんどの高インパクトのトップジャーナルは購読費モデルをとっている所が多いと思うんですよね。そこにはシンプルな経済原理で、質の高い情報がお金になるという考え方もあるので、すべてのジャーナルがオープンアクセスになるというのは非常に難しいのかもしれないですね。

あともう一つ、なぜオープンアクセスにしなくても困らないかなんですが、今まで私と宮川先生がしてきたオープンアクセスの議論は、我々の業界で言う「ゴールドオープンアクセス」についての話なんです。ジャーナル自体がオープンアクセスになっていて出版社から自由にダウンロードできる、というタイプのオープンアクセスですよね。実はもうひとつ、「グリーンオープンアクセス」というのがあって、これは購読費モデルのジャーナルの著者最終版を機関リポジトリを通じて誰でも見られるようにすればよい、という考え方です。今ほとんどの大手商業出版社はグリーンを認めている。つまり著者最終版を機関リポジトリに載せることを認めています。それでオープンアクセスに応えたことになっているんです、実は。

――なるほど、オープンアクセスを広く実現するには研究機関(研究者)、公共機関、出版社の利害関係のバランスが重要というわけですね。それぞれの機関が自分は損をしていないと思わない限りオープンアクセスへの移行は困難である、という印象を受けます。しかし最近ではオープンアクセスで掲載された論文は全体論文数の50パーセントを超えた、というデータも出ています。掲載料を自己負担することへ難色を示す方々も多くいると思いますが、第一歩はオープンアクセスの全体への利点を認識すること。異なったオープンアクセスモデルが登場していますが、皆さんはどう感じましたか?貴重なご意見お待ちしております。

 

 

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