オープンアクセス夜話(第7話)オープンイノベーションの必要性と予算の効果的な使い方

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研究者 VS. 学術情報流通のプロによるオープンアクセス談義、第7話はオープンイノベーションについて。気になる論文が掲載されても、高い購読料という壁に当たり結局読めない、という憂き目に合った方は多いのでは?実際大学やイノベーションの担い手である中小企業も同じ問題に直面しています。オープンアクセスは科学のイノベーションを活性化する土台としてもっと投資されるべきだという宮川氏。更にその延長で、限られた日本の研究予算の効果的な運用方法を説く林氏。同じ研究に二重投資を行うなど、予算の無駄遣いが問われる中、投資する対象を変える必要性を説きます。

いよいよ佳境に入ってまいりました。第7話のはじまりはじまり~
※聞き手:湯浅誠

<これまでのお話>

 

第7話 オープンイノベーションの必要性と予算の効果的な使い方

湯浅 宮川先生は「イノベーションを促進」というお話を挙げられていますが、こちらはやはり必要となってきますか?

宮川 これは当たり前の話ですよね。要するに(論文の)ペイウォールというものがあったら、そこで読む人が極めて限定されてくるわけですよね。一つのpdfファイルをダウンロードするのに30ドルとかですね、60ドルとかかかっちゃうわけですけれども、pdfファイル3ページぐらいの論文に6,000円も払うか、ということですよね。

 まあ、払わないでしょうね。普通。

宮川 払わない。最近STAP問題で話題になりましたが、STAP論文の共同研究者だった米ハーバード大のチャールズ・ヴァカンティ教授が論文を修正をしましたよね。。あの論文はPDFファイルのダウンロードに59ドルだったかな?ちょっと興味あるじゃないですか、どこを直したのかなって。でも、「どこを直したのかな?」が知りたいためにで59ドルは高いですよ(笑)。

 (笑)。そうですね。

宮川 大学がそのジャーナルを購読していればいいんですけど、してない大学のほうが多いんじゃないんでしょうか。いや、それは払わないだろう、と。でも、それくらいの興味のレベルで論文をダウンロードしてみたいということもあるんです。大抵はそんなもんですよね。メソッドをちょっと見たいとか。

湯浅 そうですよね。

宮川 ちょっとだけ見たいってのがほとんど。全部精読して、ダウンロード代30ドル分もとを取るような読み方って、あんまりしないですよ。だから読者がものすごい限定されちゃってます。特に中小企業なんかは機関購読するっていうのはあり得ないので、必要な論文1本だけダウンロードするのが普通でしょうから、そういう中小企業が日本のイノベーションをかなりの部分担っているとすれば、ものすごくイノベーションの機会を逸してますよね。

気になる論文をちょっとだけ見るだけで、もしかしたら何かすごいものが生まれるかもしれないわけです。例えば最近アメリカの高校生が、すごく安価でできるガンの検出技術を開発したというニュースがありました。開発に成功した理由はいろいろあるんだけれども、一つのきっかけがオープンアクセス論文を参考にしたことだった。オープンアクセス論文はタダなので、高校生でもタダでダウンロードできるんですよね。高校生でもそういうイノベーションができる可能性がある。その意味は、イノベーションのためには、それを支える情報インフラが必要だということです。

 それでね、サイエンス2.0とか、オープンサイエンス、シチズンサイエンスとか、いろんなキーワードでとらえていますけれども、要は今サイエンスの敷居がいい意味でどんどん下がっていっていろんな人が研究に従事できる世の中になりつつあり、それがイノベーションにつながるだろうと。この間の学術会議もプレゼンでも明示しましたけれども、ホライゾン2020の資料に書いたオープンアクセスの潜在的ベネフィットには間違いなくオープンイノベーションを推進し、新しい産業を生み出すとまで書いてあるんですよね。

宮川 ほんとですね。

 日本は今のテキストの理論っていうのは、ほとんど始まってもいないっていうのが、非常に危機感を覚えますね。

宮川 すごくびっくりする話ですよね。日本でイノベーション戦略なんて言うのであれば、特定の研究室に100億円とか巨額の研究費をつけるのではなくて、こういう情報インフラに投資する方がはるかに効果的ですよね。

湯浅 林さんから見て、OA化をさらに推進すべき理由があるとしたら他にどんなものがありますか?

 研究者視点という意味では、宮川先生がおっしゃった通りなんですけれど、今の自分の立場からの視点でいうと、やっぱり公的研究開発投資に対する社会説明責任と、投資対効果をアセスメントするという観点が今非常に重要になってきている。厳しい日本の予算の中で、科研費だけはまるで聖域のように伸び続けてきたわけですけれども、これが本当に続けられるのかという時代に、その限られた研究費をどこに配ということに、今以上に気をつけなくちゃいけなくなっているわけです。得られた成果をオープンにすることで、蛇足にはなりますが、同じような研究への二重投資を防ぐことができるんですよね。完全に避けられるかというと議論は分かれますが…。

宮川 そうですよね。二重投資の問題は、非常に重要なポイントだと思います。どういうことかって言うと、紙媒体だと紙面が限られますから重要な発見しか出版しないのが普通です。失敗実験とか再現性とれなかった実験っていうのは、世に出てこないんですよね。世に出てこないがゆえに、知らずに同じ実験をやってしまう状況がめちゃくちゃ多い。ネガティブデータがちゃんと出版されることによって二重投資っていうのが思いっきり防げる。それから、単に「再現性とれました」っていう結果が出版されていけば、情報の重みづけという観点からめちゃめちゃ重要です。そういう、再現性のとれた研究成果に乗っかって次の計画を組むことによって研究開発投資の効果はめちゃめちゃ上がると思う。結局ね、ぶっちゃけ、ライフサイエンス系の多くの論文は再現性とれないんですよ。ほんとに。この原因には不正とかねつ造とかも混ざっているでしょうし、データの恣意的な解釈とか、都合の良い解釈をできたものしか出版しないとか、そういう出版バイアスがあると思うんです。ネガティブデータや再現性をとったデータでどんどん出版されるべきで、それは電子媒体以外にはなかなかやりにくい。

――たしかに一つの研究室に多額の資金を投入するよりも、誰もが研究成果にオープンアクセスできるための情報システムの構築に投資したほうが有効かもしれませんよね?再現性も取りやすくなり、無駄な二重投資のリスクを軽減するという意味でも一石二鳥であるように思えます。現在の日本の学術界では現実的に実践可能なのか?どういった問題がつきまとうのか?賛成派、反対派、どんどん意見をお寄せください!

 

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