「“斜陽の分野”をあえて選んだ 」

熊本大学学長・谷口功氏インタビュー(1)

「“斜陽の分野”をあえて選んだ 」
私は生物と組み合わせた生物電気化学に興味を持っていましたが、当時いまだ充分に学問にはなっていなかったこともあって、学部や大学院においては、古典的な、無機および有機分子の電気化学の勉強からはじめて、その後に、生物電気化学という分野に踏み込むことになりました。そして特に、熊本大学に移ってから、金属タンパク質の電気化学分野という新しい研究分野の発展へと繋げることになっていきます。

今回のScience Talks-ニッポンの研究力を考えるシンポジウム、第1回大会「未来のために今研究費をどう使うか」、登壇者インタビューで宮川氏、豊田氏、飯吉氏に続くのは、熊本大学学長の谷口功氏です。

谷口学長はこれまで、地域発展のため最先端科学のくまもと有機薄膜技術高度化支援センター長として日本を支えるモノつくりを支援してきました。

また、2013年6月より国立大学協会副会長にも就任。また、2000年~2005年まで科学技術振興財団 個人研究推進事業「認識と形成」領域アドバイザー、2005年~2008年まで科学技術振興財団先端計測技術評価委員会 評価委員を経験しておられます。

今回のシンポジウムでは、ゲスト登壇者として、豊田氏と共に大学側の視点にたって研究費について議論します。

【湯浅】 谷口学長、この度はScience Talksシンポジウムへのご登壇を決めていただきありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

【谷口】 よろしくおねがいします。

【湯浅】 谷口先生は熊本大学の学長をされています。熊本大学は大学をあげて科学研究を推進する独自のアプローチで有名です。学内で重点的に推進する研究を「拠点形成研究」と位置づけ、重点的に予算を配分するという方法で成果を上げられています。

今回のScience Talksシンポジウムでは、研究力と研究費をめぐっての議論を行いますが、ご登壇者の1人、鈴鹿医療科学大学学長の豊田先生が再三おっしゃっているように、地方国立大学は研究力を上げる上で、研究費の配分でいわば「割を食っている」立場といえます。

そのような中で、地方国立大ながら成果を出されている熊本大学の成果を今日はぜひ語っていただきたいのですが、まずは谷口先生独自の戦略を理解する上で、先生のご経歴を教えていただけますか?

【谷口】 まず、私の研究者としての専攻分野ですが、大学では応用化学を専門として、大学院でも化学工学(応用化学はこの専攻の中にあった)を専攻しました。化学への憧れがあったのだと思うし、やはり化学研究は当時の花形でもありました。しかし、当時の優秀な学生の多くは、流行の石油化学関係をこぞって志望していました。

【湯浅】 研究分野にも時代の流行があるんですね。

【谷口】 そうですね。ですが私は、また、少し皆と違う専門ということで、化学工学(応用化学)の中でも当時少し斜陽と言われた古い「電気化学」分野を志望しました。仲間には、優秀だけれども少し変わった学生も多かったですが、みんなが斜陽のこの学問を新しく生まれ変わらせようという秘めた気持ちを持っていました。

【湯浅】 「斜陽の分野」をあえて、ですか。

【谷口】 ええ。同じ電気化学分野でも、それぞれが少しずつ異なる分野を発展させようと努力していました。そもそも電気化学分野は電気と化学の境界領域であるので、それにさらにひと味違うものを加えれば、今までの主流の古い重電や電解関係に繋がった電気化学とは異なる分野になるのではないかと漠然と考えていたように思います。

【湯浅】 学際的な要素を加えて、古い分野に新しい光を当てるということですね。

【谷口】 ある者は、化学の中でも高分子化学と組み合わせた電気化学を、ある者は、固体化学や固体物理と組み合わせた電気化学を、ある者は、エネルギーに関連した電気化学を、ある者は、物質を測るセンシングと関連した電気化学をなどなど、さまざまでしたね。

私は生物と組み合わせた生物電気化学に興味を持っていましたが、当時いまだ充分に学問にはなっていなかったこともあって、学部や大学院においては、古典的な、無機および有機分子の電気化学の勉強からはじめて、その後に、生物電気化学という分野に踏み込むことになりました。そして特に、熊本大学に移ってから、金属タンパク質の電気化学分野という新しい研究分野の発展へと繋げることになっていきます。

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