研究技術職員の中央雇用と大学コンソーシアム構想 〜「研究の職人道」を語る座談会(第3回)

「研究現場ではそれぞれの異なる能力を持った人が活躍できる場がほんとはあるんです。ちゃんと分業したほうがいい。」という宮川氏。しかしまだ日本ではURAも技術職員もアメリカほど確立された地位がなく、今まさに混迷期と言えるかもしれません。海外の制度をそのまま日本に当てはめても上手くいかないのが常。そこで出てきた構想とはーー?

「研究の『職人道』を考える座談会」シリーズでは、文部科学省 科学技術・学術政策局研究開発基盤課の中川尚志(なかがわ・たかし)氏と、北海道大学URAステーションのシニアURA、江端新吾(えばた・しんご)氏、藤田保険衛生大学・教授、サイエンストークス委員の宮川剛(みやかわ・つよし)氏をお招きして、文科省、URA、研究者の視点から研究技術者のキャリアはどうあるべきか?を語り合いました。司会はサイエンストークスの湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏です。

第3回 研究技術職員の中央雇用と大学コンソーシアム構想

中川 日本の大学では結局、研究職と事務職の2つしかない。一方、MITのシステムでは知財の専門家や技術職など、職名がきちんと完全にドキュメント化されているみたいですね。

宮川 やっぱりアメリカでは研究技術職というのがキャリアトラックとして存在していますよね。

湯浅 ただ、まさにポスドクとかテニュアトラックとか、海外でうまくいっている事例をそのまま日本で当てはめてみたらうまくいかなかったという話が多いじゃないですか。日本だって今大学にはURA(ユニバーシティリサーチアドミニストレータ)もいて、研究サポートのための技術員だってちゃんといて、大学の外から見ると体裁的には整っているように見えるんですよ。でも具体的に中の人たちから話を聞くと、「いや、全然まだうまくいってない」っておっしゃる。

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宮川 そう。まさに混乱期ですね。

湯浅 その制度をどう変えたらこの国にうまくあてはまるんでしょうかね。

宮川 そこで僕らの提案は、学術振興会の「特別研究員制度」というものを改変して、研究者や技術職員、アドミニストレータを中央雇用で雇って、国から大学に派遣されるみたいなシステムにすることです。そうすると研究者は学振の研究員みたいなポジションなんだけれど、5年に一度能力審査があって、それをクリアするとテニュアを取れて、あとは一匹狼的に様々な研究組織に派遣されながら研究を続けると。

中川 学術振興会がテニュアを出して、テニュアをとった研究者はいろんな研究組織を渡り歩きながら、科研費なりさきがけなりをとってやっていくわけですね。

宮川 そうです。そしてその人が研究費を取ったら、その研究費から人件費が中央に支払われる仕組みです。そうするといわゆる新たな財政出動がなくても、その仕組みを回せますよね。国は研究者にテニュアを与えるんだけれど、 人材が組織間を横に動いて流動するので、成果のない研究者が一つの大学にずっと留まるというようなことが起こりにくい。

湯浅 誰が組織間の人材の配置を決めるんですか?それにもし能力がない場合は?

宮川 基本的な大学や研究機関に向けて、学術振興会が人材派遣の機能を持つというイメージですね。能力のある人はいい組織に求められて派遣されていく。もしどこからもお呼びがかからないような人が仮にいたら、学振が「この組織へいってこれをやれ」と言えばいい。

中川 まあ、審査でテニュアになるってことは、研究力や実力はあるというお墨付きはあるんで、そういうケースは少ないとは思いますけれどね。

宮川 博士を取ったあとの5年後に公的な審査をくぐり抜けてテニュアを取るわけですから、その時点で相当能力がクオリファイされた人であることは確かでしょうね。

湯浅 その人たちに、その時々で重要な研究プロジェクトを任せて、ダブルPIなんかバリバリやってもらって、プロジェクトが終わったらチームを解散して一匹狼に戻り、また次のプロジェクトのために別の組織に派遣され…というイメージですか?

宮川 そんな感じです。その仕組みでいうとプロジェクトチームとしてのラボの解散も当然ありですよね。一つのプロジェクトが終わったら別のところに行く。要するに、技術者、研究者のプールを作るわけです。この仕組みにすると、雇う側の大学などの研究組織はそのプールにいる人たちにコンスタントに新しい技術を学ぶ機会を与えることができます。

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逆に1カ所の組織に決まったメンバーがずっといるとですね、人材を消費しちゃうんですよ。技術を学ばせずに、すでにある技術を使い倒しちゃう。そうやって技術者に決まり切った技術でルーチンワークばかりやらせていると、5年ぐらいで技術なんて古くなってしまう。そうすると 「君もういらないよ、じゃあね」と、新しい技術を持っていない人は放り出されてしまいます。研究者も技術員も新しい技術をどんどん学ばなければ生き残れないし、そのためには組織間の流動が不可欠になってくる。そのための中央雇用を提案しているんです。

中川 先生がおっしゃってる中央雇用の「中央」とは具体的に何を指すんですか?

宮川 日本学術振興会とか、科学技術振興機構(JST)とか。

中川 要するに、一大学の枠組みを超えたところで研究者や技術者を雇用するべきだということですね。

宮川 国じゃなくても、雇用の主体は大学コンソーシアムでもいいかもしれない。 東京大学総長の五神先生なんかは、卓越研究員制度の案を打ち出される前にはそんなシステムをご提案されてたかと思います。 関東の大学の間でコンソーシアムを作って、優れた研究者をコンソーシアムが雇用して、中で動かす。

この発想がなぜ出てくるかというと、一つの大学とか研究機関だと、やっぱり専門職を雇う枠組みとしては小さいんですよ。大学内で横に動くといっても、限界がある。研究には特殊な技術が必要です。研究者でも技術者でも。同じ技術が一つの大学内の異なるグループで必要とされる可能性は極めて低い。だから、経験を積んで技術を上げるためには一大学という枠組みを超えた広い範囲で修行を積まないと厳しい場合があるわけですね。

生命科学での例をあげると、一般的な技術は学内にもニーズがありますけど、かなり特殊な技術、例えばマウスの行動実験といった特殊技術になると、その大学の中ではニーズがなくなるかもしれない。そうするとその特殊技術を持ってる人間は、その大学内でその研究をやるPI がいなくなると、やることなくなっちゃうわけですね。

その技術者を大学が雇用している場合、大学として負債ですよね。だけど大学を超えた広い人材プールの中で考えると、こっちではその人が欲しい、という組織も出てくる。だから中央雇用とかコンソーシアムいう発想がでてくるわけです。

 

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