研究の熟練職人、「カリスマエンジニア」育成を目出して〜「研究の職人道」を語る座談会(第6回・最終回)

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研究・技術開発に欠かせない大学の研究技術職員。高度な専門職であるにもかかわらず職位や職階がちゃんと整っておらず、技術員個人の業績の定義も曖昧で、ある意味で冷遇されているのが現状です。若くて優秀な技術員を大学に確保し、頑張っている優秀な技術員がたくさんの大学から引っ張りだこになるような状況を作りたい。そのアイディアとは?

「研究の『職人道』を考える座談会」シリーズでは、文部科学省 科学技術・学術政策局研究開発基盤課の中川尚志(なかがわ・たかし)氏と、北海道大学URAステーションのシニアURA、江端新吾(えばた・しんご)氏、藤田保険衛生大学・教授、サイエンストークス委員の宮川剛(みやかわ・つよし)氏をお招きして、文科省、URA、研究者の視点から研究技術者のキャリアはどうあるべきか?を語り合いました。司会はサイエンストークスの湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏です。

このシリーズのすべての記事

第1回 研究技術支援者のキャリアトラックを考える

第2回 研究はドラクエと同じで、パーティを組んでやるもの

第3回 研究技術職員の中央雇用と大学コンソーシアム構想

第4回 研究機器や装置があっても、操作する人がいなければ意味がない

第5回 ポスドクから技術職員というキャリア選択

第6回 研究の熟練職人、「カリスマエンジニア」育成を目出して

第6回(最終回)研究の熟練職人、「カリスマエンジニア」育成を目出して

湯浅 今お話しをうかがっててざっくりとした質問なんですが、全体として今の大学にいる日本の技術職員の方々のスキルは高いんですか?

宮川 人によりますよね。今はやる気のない人の話をしちゃいましたけれど、一生懸命新しい技術をどんどん学ぼうという意欲に満ちてる能力の高い人たちはたくさんいます。

江端 スキルの高い人は年齢に関係なくたくさんいますよ。でも大学の内から外に出て相対的に見ることができないので、自分のスキルをどううまく活用したらいいのか本人がわかっていないケースが多いと思います。あなたのスキルはすごいんですよ、外から見ても評価されるものですよ、こんなところでも役に立ちますよ、と言ってあげるシステムがない。実は大学にいる技術者に民間企業が目を止めて「この人のスキルが素晴らしいからすぐに引き抜きたい」という話があったりします。

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中川 同感ですね。「ナノテクノロジープラットフォーム」という事業では、技術者の認定、表彰をするという外部評価のシステムがあります。そうすると技術者の中には「これはあなたじゃないとできません、この装置の操作をさせたらあなたが一番だ」と指名が来るような人がいる。こういう技術の評価って、大学の一人の先生の仕事しかしていなかったら、誰にも見えないし本人も気づかないわけですよね。

宮川 まさにそうなんですよ。例えばうちの研究室は共同研究拠点になっていて、マウスの繁殖とか受注をやってる技術員がいるんですよ。その人は共同研究のサポートもするので外部の研究室と直接やりとりしてもらっているんです。

そうしたら、最近その技術員の外部評価が高まってきて、他の研究室から「あの人うちに下さい」という終身雇用の技術員としてのオファーが2件ほぼ同時にきちゃったんですよ。外部と接触があると、技術のある人だという認識がじわじわと広がって、横に動くチャンスが生まれるんです。だからこそ人材のプラットフォーム的考え方が重要なんです。閉じた世界でやってると、その人の存在がコミュニティで知られないし。

江端 やっぱり、技術員の人材のバンク的な仕組みがあったうえで…。

宮川 …さらに人材のスキルがデータとして見える化されるとなおいいですね。

 江端 その人材バンクをどのように機関化するかですが、今国立大学法人の機器分析センター協議会というのがあって、その協議会の中に所属している技術者の方のデータベースをしっかり作っていきましょうという話になっていますね。自分はこんなスキルを持っています、何々大学に○○さんという技術者がいる、ということを見える化するってことですよね。

宮川  実績をCVと言う形で蓄積して。研究者でいうところのResearchmapみたいな。

中川 Researchmapの技術者版があるといいですよね。その発想は人材に限らず機器にも使えますよね。実は今JSTと話し合っているのは、研究のための共用機器の情報を載せるポータルサイト事業もやりたいんですよ。そうすると今この機器が使いたい、というときにポータルで調べて、一番近いこの大学にあるから行って使おう、みたいなことができるようになる。

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宮川 それめちゃくちゃいいですね。逆になぜ今までなかったのかなと不思議なくらい。

中川 この前も、ある大学で研究者の方と話をしていたら、「隣の研究室にどんな研究機器があるか知らない」っておっしゃるんですよね。だから、遠くの大学まで機器を借りに行ってるという場合もある。勿体無いです。最初の一歩ってそういうインフラの整備かもしれないな。Researchmapだと大学ごと、機関ごとの入力ページを使うと、一気に登録が機関ごとにできる。

宮川 機器の情報と一緒に、各研究室がその機器を使ってどういう研究ができるかの情報も載せてくれるといいな。

中川 そうですね。機器の検索ができるようにすれば、民間から「こういう分析したいんだけど、協力してもらえますか?」という問い合わせも来るようになるでしょう。そういう設備と技術をうまく各大学でアピールできたらすばらしいですよね。

江端 機器と技術者をセットで情報共有したらいいんですよね。

中川 Researchmapって研究者の情報はあるけれど、技術者の情報はないですよね。技術者も「この分析なら俺に任せろ」的な履歴書を載せたらいいと思う。

研究者にとっては論文の発表業績が履歴書代わりになるじゃないですか。じゃあ技術者にとっての履歴書ってなんでしょうね?技術論文というか、そういうものを目に見える形で発表して業績を積んでいくという方法もありますよね。

江端 問題は、技術者の方の履歴として、「あの先生のこの研究データは私が分析して出しました」と発表できるようにするかどうかですね。

宮川 それが研究者の場合はオーサーシップとして認められれば、筆頭著者でなくてもちゃんと載りますがけど、技術員の場合、共著者 に並ぶかどうかは曖昧ですね。

江端 研究者によっては、技術職員を共著に入れる人もいますよね。

中川 ただ、単にデータを採っただけではオーサーシップとしては認められないですからね。そこがすごいグレーゾーンな気がしますね。

宮川 一般的にはジャーナルの規定でいうと、論文になんらかの知的コントリビューションがないとオーサーには入れられないです。技術者であっても、データ採りだけじゃなくて知的コントリビューションがあった場合は入るし、なかった場合は入らない。

江端 オーサーに入らない技術者は、論文の謝辞に入れますよね。謝辞に入れてもらった論文を、その技術者の業績リストに入れられないですかね?

宮川 謝辞に自分の名前が書かれた、ということを技術者の業績リストに入れるってことですよね。それはありですね。ただ、技術員の貢献を謝辞に書くというマナーは、文科省のところが音頭を取ってやって行ったほうがいいんじゃないですかね?

湯浅 しかし、たとえResearchmapで技術員のスキルを「見える化」 したところで、新しい研究機器の勉強をしないで毎朝新聞だけ取りに行っているテニュアの技術員の人が出世しちゃう状況は変わらなくないですか?新しい研究をしたいから機器が使える人のデータベースからやる気のある人を連れてきても、組織内でなんらかの報酬なりキャリアパスがなければモチベーションは下がってしまいますよね。やはり頑張ってる人は当然報われるべき報酬体系があってしかるべきだと思うんですが。

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宮川 だから僕の元々のキャリアトラックの提案に戻るんですが、実績と報酬・ポジションに何らかの関係がないとだめですよね。今は頑張っても報われない人が多いのが問題で。

中川 宮川先生の提案では、リサーチトラックでもマイスタートラックでも同じシステムで、最低限の生活に必要な給料を保障して、それ以上は業績次第で報酬がつくシステムですよね。

宮川 そうです。中央雇用で研究者や技術員を雇い、能力があってテニュアトラックに乗った人は最低限の生活だけは保障する。派遣先の機関がその人の能力に応じてプラスアルファで報酬をつける。そうすると、やっぱり高度なスキルを持っている人は、自分の価値を評価してきちんと報酬を出してくれるところに行きます。市場原理がある程度ないといけないですよね。やっぱり一大学といった機関単位では市場原理が働かないので、国全体のシステムにしたほうがいい。

江端 技術者の仕事って、研究の「技術支援」といういい方をしますよね。これも問題じゃないのかなと思います。支援=支える立場だから、やはり研究員が上にいて技術職員が下にいて、というイメージですよね。それでいいのかなと。

湯浅 もちろん言葉の部分もあるかと思いますが、マインドセットの問題でもあるんじゃないでしょうか。現実問題として博士課程に行く人の多くは研究者を目指していて、ラボで教授というボスについて働いているわけじゃないですか。ラボの頂点である教授になれる人は何十人、何百人に一人。それって一般企業と同じですよね。ほとんどの人は部長にもましては社長にもなれないわけで。

時々ポスドク問題は国が間違っているという議論を見かけますが、多くの人がドクターを持っている状況は日本の社会にとっては高度教育を受けた人材が増えているわけだから、決して悪いわけじゃないはずじゃないですか。問題はシステムもあるかもしれないけれど、ラボ内での教育の問題でもあるんじゃないですか?採用したポスドクの大多数がPIや准教授になれないのが当然の現実で、その人たちをどう生かすかという教育が必要ではと思いますが。

中川 おっしゃるとおりで、PIになることがすべてという考え方では、画一的に研究者になるための教育しかしていないですよね。本当は人それぞれ向いている仕事があって分業すべきだと思うんですが。

宮川 結果的に向いてない職についている状況は不幸です。それぞれの職が誇りを持って仕事ができることが大切です。僕が自分の提案の中で「技術員」という言葉の代わりに「マイスター」を使っている理由もそこなんです。「研究者」と比較すると「技術員」ってなんかちょっと…。でも「職人=マイスター」っていうと感じがいい。日本では職人というとレベルの高い仕事というイメージですよね。

中川 「マイスター」もいいですけれど、私は「エンジニア」もピンと来ますね。装置の操作をするだけじゃなくて、装置を改良する技術を持った人、という意味も含まれてきますから。

宮川 確かに、「エンジニア」と言う言葉に日本人はリスペクトがありますね。

中川 仕事ってそういうちょっとしたことがモチベーションになりますよね。技官さんに自分がなんと呼ばれたいのかを聞いてみたいですね。

宮川 「シニアエンジニア」と言ったら相当いい感じじゃないですか?企業で「シニアエンジニア」といったらすごいポジションですよ。

中川 下手したら部長クラスですよね。

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江端 かっこいいというかモチベーションが上がるような名前の職階ってすごく大事ですよね。MITではそうしてますよね。リサーチエンジニアとかスペシャリストとか。

湯浅 最初からそこを目指してくる人が出てくるぐらいでないと。 研究者になろうとしてなれなかった人が技術員になるんじゃなくて、「シニアエンジニア」なり「マイスター」を目指してくる。

宮川 「カリスマエンジニア」みたいな人が出てきますよね。

江端 今、大学の一般的な技術職員の方々は公務員試験を受けて就職してくるわけですが、大学の偉い先生の元で働くということで、いい技術を持っていても学歴的な劣等感を持っている方もいると聞いています。でも最初から働きながら「スペシャリスト」、「エンジニア」を目指しましょうという将来像が見えていたら、そんな風に感じない方が増えるのではないでしょうか。

本来技術員は、研究者と一緒に、専門家どうしパートナーとしてやっていくべき人たちだと思います。給与制度だって、技術によっては専門家として研究者と対等なものであるべきだと思いますが、なかなかすぐにはできないので、まずは職階というか地位をしっかりと確立できると良いですね。

湯浅 技術者の職階を整えて「カリスマエンジニア」が日本にこれからどんどん出てきたら、日本の研究の進歩もかなりスピードアップするんじゃないでしょうか。江端さん、中川さんが進められている技術員キャリアトラック制度の検討がそのカギになると期待して。サイエンストークスでもこのテーマを継続的に追いながらできる限りのサポートができれば嬉しいです。今日はみなさんありがとうございました!

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第1回 研究技術支援者のキャリアトラックを考える

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