「第2,第3の山中伸弥先生を目利きして見出すシステムをどうすれば構築できるか?」

鈴鹿医療科学大学豊田先生のシンポジウム後インタビュー

「第2,第3の山中伸弥先生を目利きして見出すシステムをどうすれば構築できるか?」

「とりあえず、ただちに、基盤的研究費削減と、選択と集中政策をやめるべきです。」

2013年に開催したサイエンストークス・シンポジウムで、鈴鹿医療科学大学、豊田長康学長は、反論を受けることを知りながらあえて繰り返し主張し続けています。そのココロとは――。

「勝手に第5期科学技術基本計画みんなで作っちゃいました!」の第1弾イベント、サイエンストークス・バー~第5期科学技術基本計画についてもっと知ろう、もっと語ろう~に向けて、今までにサイエンストークスで出てきた第5期に盛り込んでほしい皆さんからのアイディア、今掲示板Twitterで募集中のアイディアを紹介していきます。

昨年の2013年サイエンストークス・シンポジウムでは、「未来のために今、研究費をどう使うべきか?」というテーマで6名の登壇者の方々も含めた総勢100名で議論しました。今日はその中から鈴鹿医療科学大学学長、豊田長康氏へのシンポジウム後インタビューを交えて、今の地域大学(地方大学)の抱える問題を取り上げてみたいと思います。

豊田氏のシンポジウムでのプレゼンは動画でご覧いただけます。
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 - 今回のScience Talksシンポジウムで実際にご登壇されていかがでしたか?

toyoda_face.jpg豊田 「今までの、単なるレクチャー形式のシンポジウムではなく、各テーブル単位で着席をしていただき、ディスカッションをしつつ、シンポジストの話を聞き、また、登壇者もソファーに座って打ち解けた感じで、聴衆との一体感が生まれたのではないか。」

- 今回は国家の「研究費」をテーマに、大学経営ならではの視点をお話しいただきました。

toyoda_face.jpg豊田 「研究費という話題を取り上げたのは、最初のシンポジウムとしては、よかったと思います。官僚のみなさんと真っ向から意見が対立したわけですが、むしろそういうクリティカルな議論がある会の方が聴衆にインパクトを与えたのではないかと思っています。賛否両論があるとは思いますが…」

- シンポジウムでの議論を終えて、次回に残した課題は何でしょうか?

toyoda_face.jpg豊田 「個人的には、実際に日本の研究力を高めることのできる政策マネジメントの議論をしてほしいですね。マネジメントで重要なことは、目標の明確化です。まず第一にどの程度の研究力を日本が目指すのかという目標を明確に設定することが非常に大切だと思います。そして日本の研究力と研究費の現状分析。

特に海外と日本の研究費の計算の仕方の違いの問題。そして、日本の現状を踏まえた上で、研究力を高めるにはどういう方策があって、どの程度お金が必要なのか?いったいお金を増やさずに目標を達成する手段は存在するのか?研究費総額を増やさないことには、研究力は上がらないとすると、いったいどういう手段があるのか?

研究費総額の次は種蒔きと選択と集中のバランス。その際に必要となるのは目利きシステムです。第二第三の山中伸弥先生を目利きして見出すシステムをどうすれば構築できるか?もちろん、この際にもお金の問題は避けて通ってほしくないと思っています。」

- 豊田先生の国家研究費の増額なくして研究力向上はない、というご主張には、異論・反論も出ましたが、議論をしてみてどう感じられましたか?

toyoda_face.jpg豊田 「僕の主張に対する反論は、今までに耳にタコができるくらいに聞かされてきたことばかりでした。講演で説明不足だったことをディスカッションである程度理解をしていただけたとは思うのですが、やはり、僕の真意がなかなか伝わらない人もいるのだな、ということを感じました。」

- 10月のシンポジウムで言い残したこと、これからさらに議論すべき「研究費問題」のポイントはどこだと思いますか?

toyoda_face.jpg豊田 「僕が基盤的研究費の削減+選択と集中政策の即時中止と、研究費総額の必要性を激しく訴えた理由は、昨年の内閣府の、とある委員会にて、科研費を増やしたが論文数が増えなかったので、科研費の在り方そのものに問題がある、という耳を疑うような意見が政府高官から出されたことに端を発しています。僕はその席で、研究費と論文数は強く相関することから、科研費を増やせば必ず論文数が増えるはずであること、そして、運営費交付金の削減が論文数にマイナスの影響を与えていることを加味しないといけないという意見を述べたように記憶しています。

つまり文科省の方々は科研費の重要性がよくわかっていらっしゃるのですが、それ以外の方々は、どうも科研費がバラマキであるとして意義を認めておらず、さらにいっそうの選択と集中や重点化すべきであるという考えらしい。そして、僕が研究費と論文数は強く相関すると述べたことに対しても、そんなことは信じられないというような反応をされたのです。

このようなことを経験して、僕は、論文数が研究費と強く相関すること、そして、選択と集中が必ずしも論文の生産性に良い影響を与えないことをさらに裏付ける根拠データを求めていました。

そうしたところ、文科省の科学技術政策研の研究者の方々が、少額で多くの研究者に配分している科研費(バラマキと批判されている科研費)の方が、むしろ生産性が高いことを示唆するデータをお出しになったのです。このような結果からは、むしろ幅広く採択率を高めた方が、つまり科研費を批判する方々の言葉で表現すれば、「バラマキ」の率を高めた方が、質の高い論文数が増えるということになります。

科研費がかろうじて守られたのは、この日に登壇された菱山さんを初め文科省の皆さんのお陰であると思います。

また、僕は地方大学の生産性の高さについても主張している訳ですが、選択と集中政策の極みであるかのような「研究大学」への支援事業についても、今回一部地方大学が選ばれたことについては、文科省の配慮があったものと思っています。但し、文科省以外の政策決定者には、ほとんどそのような理解はないと感じています。したがって、このことについては、一層強く、また、今後も継続的に国民や政策決定者に訴える必要があると思っています。

日本の人口あたりの高注目度論文数は台湾、韓国につづいて21位です。資源の少ない日本が生きていくためには、イノベーションで海外から物を買う必要があるのですが、そのためにはイノベーションの「質×量」で海外に勝っている必要があります。高注目度論文数はイノベーションと相関するとされており、日本が身の丈に応じた豊かさを保って今後生きていくためには、人口当たりの高注目度論文数の国際ランキングを上げる必要があると考えます。

台湾や韓国に追いつかないといけない立場にある日本が国際競争に勝つためには、研究費総額を2倍に増やす必要があるということ今回主張しましたが、これは財務省からは120%とんでもないと言われることを承知でお話をしています。ちなみに西欧諸国に追いつくためには3~4倍程度研究費総額を増やす必要があります。研究費総額を増やすことに言及するのは長い間タブーでしたし、今でもタブーであり、こんな主張をするのはおそらく日本で僕一人だけです。

但し、研究費は論文数と最も強く相関するファクターであり、研究費を削減すれば、忠実に論文数は減りますし、論文数を増やそうと思えば研究費を増やさざるを得ません。研究費以外のファクターも、もちろん重要なのですが、研究者の方々も、すでに疲弊するほど頑張っておられるのですから、これ以上色々やっても1割までしか伸びしろがないと思われ、9割以上は研究費で決まります。これは事実として、財務省をはじめ政策決定者に認識していただく必要があります。

この際、研究費の算出についえては、国際的な算出方法に準拠する必要があります。特に運営費交付金については教育費と研究費の区別が必要です。そうでないと、日本政府は研究費をたくさん出しているのに、海外よりも論文の生産性が低いなどという、まったく間違った政策判断がなされることになります。

文科省の菱山さんは、今回のシンボジウムに、研究費を増やさずに研究力を高めるアイデアを期待しておられたようですが、これは、本当に申し訳ないと思うのですが、日本の研究力の窮地を救ってくれるような魔法の杖は残念ながら存在しないと思います。もう、10年も多くの人がそればかり考えて色々やっても、状況は益々悪くなるばかりですからね。今後も、この手の研究力を議論する会議に何回出席されても、失望が続くものと思います。

国民が研究費を出せないという判断をするのであれば、それはそれで一つの判断です。ただし、それなりの国際的地位に甘んじるしかない。財務省が研究費総額を増やせないとおっしゃるのは、西欧諸国や台湾、韓国にも勝つ必要がない、あるいは勝てないと宣言しているのと同じことです。

そもそも国民一人あたりのGDP国際ランキングもかなり低くなっているわけですからね。この現実は直視しないといけないと思います。今回お示しをしたデータは人口当たりの高注目度論文数が世界で21番目というデータでしたが、実は、GDPあたりで計算しても、西欧諸国や台湾、韓国に続いて21番目なのです(今回のシンポジウムではお示しをしていません)。これは日本国が経済力に応じた研究を行っていないということになりますし、これからの日本は自分の身の丈以下の豊かさに甘んじるしかないということを意味します。

日本が何にお金を使っているかと言えば、神田さんもおっしゃっていたように、日本は身の丈の経済力を超えて社会保障費にお金を使っているということになります。

もし、国民が、科学技術の国際ランキングを上げたいと思うのであれは、つまり、イノベーションで海外から物を買い続けたいと思うのであれば、何らかの方法で研究費総額を増やす必要があります。この場合は、神田さんがおっしゃっていたように他の予算(社会保障費など)を削るか増税しかない。つまり、科学技術の国際ランキングを上げるために社会保障費や増税と天秤にかけて、科学技術の国際競争力をあげる方が、優先度が高いと国民が判断するかどうかにかかっています。米百俵の決断を政策決定者がするかどうかですね。

この際、社会保障費の抑制にしろ、増税にしろ、国民にとって相当な痛みを伴うことになりますから、その痛みに見合う見返りが科学技術に求められるということになります。また、現在の大学に対して、国民が不信感を抱いている状況では、お金を出す気になれないということがあるかもしれませんね。特に教授会ガバナンスに対しては、今でも不信感が強い。誤解もあるとは思いますが・・・。

日本の科学技術の窮地を救うためには、まず、国民がお金を出してもいいと感じることは、恥も外聞もなく全てやるということでしょうね。実現可能性や是非を無視して、ブレーンストーミングをしますと、国民が短期の成果を求めるのであれば、大学は応用研究に集中してもいいし、企業の下請けの研究に徹してもいい。教授会がけしからんというのであれば、教授会のない研究機関にしたっていいし、大学の統合もどんどん進める。

但し、予算削減のための統合ではなく、国際競争に勝つための統合であり、iPS細胞のような夢を感じさせる世界一を目指す研究拠点や産学連携拠点をどんどん造る。国立大学は全て大学院大学、あるいはイノベーションに特化した大学にする。運営費交付金は全て研究費に回して、教育費は受益者負担にする。今回の震災対応の給与削減分が万が一大学に帰ってくるのであれば、それで給与を増やさずに、若手研究者を増やす。

これらは単なるブレーンストーミングですが、いずれにせよ、大学のあり方を抜本的に、しかも早急に変えることが必要と思われます。

ただ、このような議論をしている間にも、基盤的研究費削減(研究費を2倍の速度で削減しているのと同じ意味です)と、生産性の高いセグメントを弱体化させるという間違った選択と集中政策が引き続き続けられ、今後もどんどんと研究力(論文数)は低下し続けることになります。とりあえず、ただちに、基盤的研究費削減と選択と集中政策をやめるべきです。

- ありがとうございます。ちなみに、今年11月にも第5期科学技術基本計画に関連したシンポジウムを予定していますが、次はどんなフォーマットのイベントがいいと思いますか?

toyoda_face.jpg豊田 「今回のフォーマットは良かったと思います。次回も基本的には同様のフォーマットでもいいのでは、ないでしょうか?」

- 今回のシンポジウムは新しい試みでしたが、サイエンストークスはこれからどのような場になって行くべきでしょう。

toyoda_face.jpg豊田 「研究者の皆さんが、本音でトークできる交流の場になっていくべきだと思います」

- その他コメントがございましたらご自由にお書きください。

toyoda_face.jpg豊田 「準備にあたっていただいたスタッフの皆さんに感謝いたします。また、司会進行をお勤めになった小山田さんはすばらしかったですね。」

 

豊田氏は、ご自身のブログでも、その他の議論の場でも、国の研究力を上げるためには研究費を増額する以外に方法がないこと、第2、第3の山中先生を生み出すためには科研費のバラマキと目利き力を高めることが最も効果が高く、今の少数の大学・研究機関や研究者への過度な選択と集中、基盤的研究費の削減は逆効果であることを強く主張されています。

アベノミクスの効果で日本経済もやや上向き加減と言われているものの、予算増額議論は一種のタブー。サイエンストークスのディスカッションでは、財務省の神田氏、元文科省の菱山氏を含め、会場の方々からも「国家予算が限られている今、研究費を増やせという主張だけでは難しい。今の予算で研究効率を上げるというだけでなく、科学技術予算を費やすことの意義と重要性を説明するために、研究者コミュニティや大学からのバックアップが必要である」という反論もあり白熱した議論になりました。

日本経済の伸び悩みの中でも手厚く守られてきたという評価もある国家の科学技術予算。一方で、学術分野でも急成長する中国、台湾、韓国などのアジア諸国を含めた諸外国と競合していくという視点から比較すると予算の伸びが問題となってくるのも事実。

高度経済成長期とは状況が一変した日本で、大学が研究パフォーマンスを上げていくために、みなさんはどうしていくべきだと思いますか?

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