ポスドクから技術職員というキャリア選択 〜「研究の職人道」を語る座談会(第5回)

研究者も技術者も、新しい技術を学ばなければ生き残れない時代。技術員のスキルアップのためには組織間の人材の流動化が必要ですが、システムが全く存在しない現状があります。研究装置と研究技術者、両輪のリソースを最適化するためにはどんな仕組みがあり得るのでしょうか。

「研究の『職人道』を考える座談会」シリーズでは、文部科学省 科学技術・学術政策局研究開発基盤課の中川尚志(なかがわ・たかし)氏と、北海道大学URAステーションのシニアURA、江端新吾(えばた・しんご)氏、藤田保険衛生大学・教授、サイエンストークス委員の宮川剛(みやかわ・つよし)氏をお招きして、文科省、URA、研究者の視点から研究技術者のキャリアはどうあるべきか?を語り合いました。司会はサイエンストークスの湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏です。

このシリーズのすべての記事

第1回 研究技術支援者のキャリアトラックを考える

第2回 研究はドラクエと同じで、パーティを組んでやるもの

第3回 研究技術職員の中央雇用と大学コンソーシアム構想

第4回 研究機器や装置があっても、操作する人がいなければ意味がない

第5回 ポスドクから技術職員というキャリア選択

第6回 研究の熟練職人、「カリスマエンジニア」育成を目出して

第5回 ポスドクから技術職員というキャリア選択

湯浅 宮川先生にこれはお聞きしたいんですが、「ポスドク問題」というのは端的に言えば、いわゆるポスドク1万人計画のあとでドクター人材を増やした結果、研究職のポジションが足りなくなったという話ですよね。ドクターを取ったのに仕事がない人がいっぱいいる。

一方で、中川さんや江端さんは、理系の研究に必要な技術職員が足りないから、その二つの問題をつなげて予算をとって、必要な技術者を育成して職を安定させるシステムを作ろうということじゃないですか。そのためには、技術を持っている人が技術職に来てくれないと話が始まらない。

宮川先生だったら、もし自分が仮にPIに向いてないというとき、技術職員のキャリアに転向できますか? 研究者の皆さんって、そういうマインドセットってあるんですかね?

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宮川 うーん、それは待遇による。

湯浅 待遇によると。つまり科研費による任期付雇用ならやりたくない、みたいな?

宮川 科研費雇用だと、任期が3年とか2年とかですよね。実際、技術員の人は研究室単位で科研費雇用されてます。うちの研究室でも、博士号を持ってる技術員はそうです。

中川 最終的には研究キャリアに進みたいから技術職についてるポスドクは期間雇用で雇われた方がありがたいみたいなこともありませんか?

宮川 そういう人もいるかもしれないし、人によりますよね。でも技術職でいいポジションがあったらやっぱり就きたいでしょう。技術職員をしていてあとから研究に戻りたくなったら、別に戻ればいいし。

中川 文科省で行ったアンケートでは、ポスドクの人に「次のポストは任期付がいいですか、定年制がいいですか」と聞いたところ、子育て中の女性のポスドクなんかは今はテニュアより自由がきくポジションがいい、といって任期付を希望する人もいました。我々には圧倒的に定年制希望者が多いという思い込みがあったんですが、必ずしもそうじゃない。

宮川 そういう人も一部にいらっしゃることは確かですが、マジョリティではないですよ。

江端 アンケートの意見を見ていると、ドクターを持った技術職員って結構いますよね。ただ、その人たちは一生技術職員でいたいというわけではなくて、研究者としてのトラックに戻りたいという希望がある人が多い。

宮川 それは研究者のほうがポジション的にいいからですよ。生活がある程度は保障されていて、多少は自分のやりたい研究もできるわけですから。

中川 今は技術職なんだけれど、将来研究トラックに戻りたい、という人が一番ストレスを抱えていますよね。技術職だけで100%以上働かなければいけない中で、自分のやりたい研究がある人は基本、自分で研究費を別でとって、土日に研究する。アンケートからもこの状況に対するストレスがなんとなくにじみ出ている。

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宮川 特定のプロジェクト雇用で働いているポスドクの人は、自分でやりたい研究があったら自分で科研費とってやらなければいけないですからね。

中川 研究職ならば科研費をとって研究をするのは当たり前で、それが仕事なんですけれどね。技術職の人で将来的に研究トラックに戻りたいという人はそれをやらざるを得ないし、自分のスキルアップにもつながるからもっと推奨した方がいいと思うんですけれど。なにがネックになっているんでしょうか。

江端 実態としては、ポスドクで技術職員として雇用されている人たちには、プロジェクト雇用の人と部局で雇用されている人たちがいますが、どちらも同じで、勤務時間や仕事量はその人材の100%エフォート、ギリギリで決められていますよね。だから勤務時間中にはそれ以上やっちゃいけないしやれない、という状況があると思います。

それでも自分の研究がしたければ休日を削って研究費とってやれということになりますが、そこまでしてやりたい人がどれだけいるのか。技術職員の中には、大学のそんなシステムの中に長年いると当然モチベーションがどんどん落ちてきて、毎日ルーチン作業しかできないという状況に陥ってくる人もいます。

宮川 そうするとお荷物になっちゃう。それは研究者でも同じですけれど。今の日本の研究組織における技術者のテニュアポジションって、あまり職階がなくて、課長と平職員しかいないみたいな状況ですよね。特定のラボについて、その仕事に慣れきって、課長にならなければずっと平から動けない。

江端 大学だと、技術職員の職階は3レベルぐらいですね。係長や課長など、頑張って出世しても2階級しか上がらない。一方、教員には 4段階5段階あるわけですよね。なんだこれは、と思いますよ。普通に考えて、組織のルールとしておかしいだろうと思うわけです。

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宮川 モチベーションがちょっと弱くなりますよね。

江端 弱くなりますよね。技術職員は、大学の中で冷遇され過ぎてるところがあると思います。

湯浅 でも、それは国の規則で縛られてるわけじゃないから、大学内で階級や役職なんて好きなように作れるんじゃないですか?

宮川 そうですよ。大学がいかようにも変えられる部分ですよね。

江端 だから、そこをもっと根本的に変えていきたいと私は思っています。今技術職員のモチベーションが上がらない中で、国や執行部が「君たちがんばってもっとやれよ、新しい技術を身につけろよ、役職名なんて好きなものなのってもいいからさ」、と言ったってなにも変わらないですよ。

湯浅 技術職員を派遣方式にするという話に関しては、広島大学さんはすでに技術センターに人を集約して派遣機関として機能させていますよね。技術センターとそれぞれの部局との交渉で、こういうスキルがあってこの種の研究をやってる人といった条件で派遣をする。

ただ、そこでは技術センターから出す人材はあくまで全学のための技術職員であって、特定の学部のためだけの研究人材は学部の予算で雇ってね、というふうにしてるそうなんですね。そういう仕組みが技術職の人のスキルアップやモチベーションにつながる仕掛けになっているんでしょうか。

江端 いろんな大学の技術系の人たちを見てると、形的にはセンター雇用になってまとめていますと説明はしても、実際には各先生方、ラボにについて働いているというのが実態です。お金もラボから出ているんですから。

宮川 お金は先生たちがだしていますよね。研究費から。

江端 難しいのは、技官を一箇所に集めても、その人たちにはこれまで特定のラボについて働いてきた歴史がありますよね。だから、形式として一箇所にあつめて派遣にしても、本当の意味での改革にはならないと思います。

理想論を言えば、最初に技術職員を新規雇用する段階で、ラボや一人の先生に直接つくのではなく、技術職員が一元化されたセンターに雇用する。そのセンターが「君はこういうローテーションでこういう研究室をいろいろ回っていろんな技術身に着けていってね」といっていろいろな職場を経験させて教育していくのが良いと思います。

中川 理想的には、今の大学の技術センターはそれを目指してるんだと思うんですけれどね。

江端 はい、理想的には。ただ、今までの歴史がありますから、これまでラボや先生付きで雇用されてきた50代とか定年近い技術職員の人たちもいるわけで、その人たちを巻き込んでセンター雇用をうまく回そうとすると、彼らはもう動きたくないわけですよね。

宮川 動きたくないし、新しい技術を学ぶ気がない人もいる。研究者がラボをセットアップした時に技術員の人に技術を覚えてもらうのにめちゃくちゃ苦労することがあります。これがストレスなんですよ。この技術が必要なんで学んでくださいといっても、「難しくてできません」と言うんです。そんなに難しい技術じゃないんですが、学ぶ気がない。だからラボにいてもなにもできないから仕事がないんですが、年功序列の世界なのでそれが問題にならないから、そのまま課長になっちゃったりする。

若い人の場合はさすがに覚えてくれる場合が多いでしょうけれど高齢の技術者となると新しいことを学ぶ気持ちはなくなっている方が中にはいますよね。

中川 技術者人材のパイが大きければ、60近い人に新しいことを勉強してもらわなくても、分業して特定のスキルがある人を探すということもできるんじゃないですか?

宮川 ただですね、技術は更新されていくので、やっぱり新しい技術を学ばない技術者は組織のお荷物になっちゃうんですよ。例えば、ある装置が以前はそれなりに使われてたんですけれども、質量分析が登場してから全く使わなくなっちゃった。機械自体はあって、その機械を使うにはかなりスキルが必要で、スキルのある技術者もいるんです。

でもその機器のニーズ自体がどんどん減っている。そうすると、ラボについている技術者は他にやることがないですよね。その人に質量分析機器の使い方をお覚えてくださいと言っても、覚えない。

中川 今は装置自体があるからいいけど、その古い装置が廃棄されちゃったら技術者はどうするんですか。

宮川 それは興味深いですね。どうするんだろう?

(つづく)

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第1回 研究技術支援者のキャリアトラックを考える

第2回 研究はドラクエと同じで、パーティを組んでやるもの

第3回 研究技術職員の中央雇用と大学コンソーシアム構想

第4回 研究機器や装置があっても、操作する人がいなければ意味がない

第5回 ポスドクから技術職員というキャリア選択

第6回 研究の熟練職人、「カリスマエンジニア」育成を目出して

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